アルツハイマーの
発症リスク低減を目指す
遺伝子療法が治験へ
アルツハイマー病は人々に特に恐れられている病気の1つだ。根本原因は分かっておらず、確実な治療法も存在しない。ニューヨークの医師チームは、新たなアプローチによる遺伝子療法の治験をこの5月に開始することを発表した。 by Antonio Regalado2019.03.04
アルツハイマー病の原因について、確かなことは分かっていない。だが、アルツハイマー病に関するある事実は、ほとんど反論の余地がないものとなっている。APOEと呼ばれる遺伝子のどのタイプを受け継いだかにより、アルツハイマー病発症のリスクが平均の半分になるか、あるいは12倍以上になる可能性がある。
「忘却の遺伝子」と呼ばれることもあるAPOE遺伝子には、APOE2、APOE3、APOE4という3つのタイプがある。APOE2はアルツハイマー病の発症リスクを下げ、APOE3は同リスクを平均レベルにし、APOE4は同リスクを大幅に高める。APOE4を持つとアルツハイマー病になるリスクが非常に高くなるため、医師は患者のAPOE遺伝子を検査することを避けている。悪い検査結果は被験者を動揺させる可能性があり、その状況を改善する手立てがないためだ。治療法は存在しないし、遺伝子を変えることもできない。
少なくともいまのところはそうだ。しかし、ニューヨーク市に拠点を置く医師たちが、最も高リスクなAPOE遺伝子(APOE4)を持つ人の脳に、低リスクのAPOE遺伝子(APOE2)を大量投与する新しい遺伝子療法の試験を2019年5月に開始することを発表した。
この治療法により、すでにアルツハイマー病を患っている人の脳障害の進行を遅らせることができれば、結果的にアルツハイマー病を予防する方法につながる可能性もある。ニューヨークのマンハッタンにあるワイル・コーネル医療センター(Weill Cornell Medicine)のロナルド・クリスタル医師が率いる研究チームが治験で実施する治療法は、認知症を治療するための新しい方法であると同時に、遺伝子療法に新たな新たな工夫を加えたものでもある。ウイルスを使ってDNA指令を患者の細胞に導入するテクノロジーを用いる遺伝子置換療法のほとんどが、1種類の異常な遺伝子を正常な遺伝子に置き換えることで、血友病のような希少疾患を治すことを目的とする(「血友病患者への遺伝子療法、臨床試験の経過は良好」も参照)。
だが、一般的な病気の原因は1つだけではないため、遺伝子療法は有望なアプローチではないように思われてきた。業界団体の再生医療アライアンス(Alliance for Regenerative Medicine)によると、現在、アルツハイマー病患者に試みられている遺伝子療法は、同団体が知る限り存在しないという。
「人間を対象にした治験をするのは望みの薄い大胆な試みのように思われますが、患者は治療法を切実に必要としています」とペンシルベニア大学医学大学院のキラン・ムスヌル教授は語る。心臓病の遺伝子治療を研究するムスヌル教授によると、ニューヨーク市での実施が予定されている今回の治験は、治療することではなく「健康な人の将来の病気のリスクを下げる」ことを目的としており、新しいカテゴリーの遺伝子療法を象徴 …
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