KADOKAWA Technology Review
×
遺伝子編集ベビー問題
科学者らが指摘する
隠された「もう1つの狙い」
John Ueland
カバーストーリー Insider Online限定
The CRISPR twins had their brains altered

遺伝子編集ベビー問題
科学者らが指摘する
隠された「もう1つの狙い」

中国で昨年生まれた遺伝子編集ベビーは、HIVへの耐性を持たせるのが目的だったとされているが、知能を向上させる狙いがあったのではないかと著名科学者らが指摘している。 by Antonio Regalado2019.02.26

昨年、遺伝子編集によって中国で誕生した双子の女の子の脳は、認知機能と記憶力が高まるように改変されている可能性があると科学者らが指摘している。

中国の研究チームは、遺伝子編集ツール「クリスパー(CRISPR)」を使って、双子の女の子として生まれたルルとナナのCCR5と呼ばれる遺伝子を着床前に改変した。その目的は、エイズの原因となるウイルスであるHIV感染に耐性を持たせることだったとしている。しかし新たな研究により、双子の女の子のDNAに施したのと同じ改変をするとマウスが賢くなるだけでなく、同じ変異を持つ人間の脳においても、脳卒中からの回復が向上し、学業での優秀な成績にも関係する可能性があることが示された。

「おそらく、遺伝子編集された双子の脳にも影響があるはずです」とカリフォルニア大学ロサンジェルス校(UCLA)の神経生物学者アルシノ・J・シルヴァ教授はいう。シルヴァ教授の研究室はこれまで、CCR5遺伝子が記憶の形成と新たなシノプス結合に果たす重要な役割を明らかにしてきた。

「もっとも単純な解釈は、遺伝子の変異がおそらく双子の認知能力に影響を与えるだろうということです」。シルヴァ教授は、どんな影響が出るかについて正確には予測できないとして、「だからこそ、やってはならないのです」と語る。

中国深セン市にある南方科技大学の賀建奎(フー・ジェンクイ)准教授(実験が発覚後、大学を解雇された)の研究チームは、クリスパーを使ってヒト胚からCCR5遺伝子を取り除いた。その後、CCR5遺伝子を取り除いた胚のいくつかが、双子の妊娠に使われた。HIVは人間の血液細胞へ侵入するためにCCR5を必要とする。

この実験は、無責任な行為として広く非難され、大学を解雇されたフー元准教授は現在、中国当局の捜査を受けている。しかし、初の遺伝子編集による赤ちゃん誕生のニュースは、クリスパーがやがて、米国と中国の間でのバイオテクノロジー競争の一環として、超知性を備えた人間を作るのに使われるのではないかという不安に火をつけた。

フー元 …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. Why the next energy race is for underground hydrogen 水素は「掘る」時代に? 地下水素は地球を救うか
  2. How a top Chinese AI model overcame US sanctions 米制裁で磨かれた中国AI「DeepSeek-R1」、逆説の革新
  3. This quantum computer built on server racks paves the way to bigger machines ザナドゥ、12量子ビットのサーバーラック型光量子コンピューター
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る