ここ数十年間において、火星は太陽系で(地球の次に)もっとも探査が進んだ惑星となった。これまでにいくつもの訪問者を迎えている。実際、「赤い惑星」の表面や周囲では現在、8つのミッションが進行中だ。最も古いのは2001年に火星に到着した探査機「マーズ・オデッセイ(Mars Odyssey)」であり、2025年までの運用が想定されている。米国航空宇宙局(NASA)、それにおそらく他の宇宙機関が、火星の試料を地球に持ち帰ったり、最終的に人類を送り込むという目標に向けて活動する中、さらなるミッションが計画されている。
こうしたミッションの目標はいずれも、よい詳細な火星表面の地図を作成することだ。惑星探査車は地表の詳細情報を提供してくれるが、1日にわずか数メートルしか進めない。NASAの火星探査車「オポチュニティ(Opportunity)」は、役目を終えるまでに45キロメートルという大した距離を移動したが、それには15年近くを要した。
惑星科学者は、火星の表面をより短時間で探査できる方法を模索している。1つのアイデアとして、滞空能力のあるエンジンを搭載した飛行機を火星の大気中に飛ばすというものがある。そのようなミッションは長距離に対応できるが、費用は高騰し、3億5000万ドル以上かかる。
もっと安く済む方法としては、大規模なミッションとの抱き合わせがある。そこで、別のアイデアとして、周囲を調査できるクアッドコプターを火星探査車に取り付けることがある。しかし、そのような方法では飛行距離は短く、限られた範囲しか移動できないだろう。
必要なのは、別のミッションに便乗できる程度に小型でありながら、長距離に対応できる機体なのだ。
現在、アリゾナ大学で研究助手を務めるエイドリアン・ブースケラとアマン・チャンドラらのチームが、まさにそのようなミッションを提案している。同チームのアイデアは、動力を持たないグライダーを火星大気中に発射し、熱上昇気流(上昇する暖気の柱)で高さを稼ぎ、滞空させるというものだ。グライダーは空気注入式にして、火星への大規模ミッションプロジェクトの付帯プロジェクトの観測機器として運べる程度の容積にまで圧縮できる。
背景となる知識について少し説明しておこう。現在火星を周回している宇宙船は、1ピクセル当たり30センチメートルの解像度で画像を撮影できる。惑星科学者はそれらの画像を少しずつ組み立てて、比較的解像度の高い火星表面の地図を作成している。
しかし、将来の着陸ミッションの計画を立てるためには、さらに解像度の高い画像が必要となる。これまで、ほとんどの探査車は比較的平坦な面に着陸しており、大きな岩石やクレーターに衝突する可能性は低かった。しかし、比較的平坦な面は、科学的には、さほど興味深くない場所になりがちだ。惑星地質学者は、水の力で形成されたと思われる谷や尾根をぜひ訪問したいと思っているだろ …