中国の深セン市では、幼稚園児にも宿題が出される。おぼつかない足取りで朝8時に幼稚園の門をくぐり、午後5時に外に出てくる子どもたちは、ワークブックがいっぱいに詰まったリュックサックの重みに押しつぶされそうだ。子どもたちの多くは、すぐに家に帰るわけではない。ダンス教室、ピアノのレッスン、英語の個別指導、カンフーの稽古などに行かなければならないのだ。習い事を終え、夕食を終えてからが宿題の時間だ。夜10時までに寝られれば運がいい方だ。
我が子が同級生の中で落ちこぼれになるのを見たくないという恐怖から、中国の親たちは、役に立ちそうなものを手当たり次第に探し求めている。
そんな親たちの中には、子どものDNAから隠れた才能を探し出せることをうたい文句にする遺伝子検査に目を向ける人々もいる。こうした検査には、大した科学的根拠はない。しかし、深セン市のような都市に次々と設立されるクリニックの数から考えると、この「才能検査」が、中国で遺伝学産業が急速に発達している理由の1つになっているようだ。
スタートアップ企業が集まる深セン市南山区に建設された高層ビルの14階に、中国生命工学テクノロジーグループ( China Bioengineering Technology Group、「CBTジーン」と呼ばれる)のオフィスはある。半分は医療クリニック、半分は高級スパといった趣きのこのオフィスでは、輝く金色の壁紙が貼られ、洗練された服装の営業担当者が、お堅い雰囲気の白衣の医療スタッフと同じ空間にいる。このクリニックでは、遺伝子検査以外にも、美容整形手術から伝統的な中国医療の治療まで、あらゆる医療サービスを提供している。
営業担当者が持つ分厚い冊子には、1人の子どもに対して検査する200項目以上の指標がまとめられている。挙がっているのは、音楽や数学、読解の能力、運動の才能、恥ずかしがり屋、内向的、外交的といった性格、そして記憶力といった遺伝する可能 …