南ヨーロッパ、とりわけスペイン東部にある洞窟壁画は、アートの世界における大きな謎となっている。この岩壁画は、人間社会が狩猟採集社会から農耕社会へと移行した5000年前から8000年前に描かれたと考えられている。
数多くの研究がされてきたものの、いまだにこれらの絵画の起源は謎に包まれている。壁画を描いた人たちは塗料や結合剤に何を用いたのか、これほど長い年月にわたり色が保たれてきたのはなぜか、そして最も議論の的になる、これらの壁画が描かれたのは一体いつなのか、といった疑問に対する確かな答えを持つ人はいない。とりわけ考古学者が心から知りたいと思うのは、壁画が、農耕社会に移行する前の中石器時代のものなのか、それとも農耕社会への移行がすでに始まっていた新石器時代のものなのか、という点だ。
スペインのバレンシア大学のクロドアウド・ロルダン研究員と同僚らによるスペイン東部のレバントの岩壁画の研究が、こうした疑問に対するユニークな洞察を提供している。同研究チームは、岩壁画上で繁殖するバクテリア群と、壁画を構成する色素および結合剤のゲノム解析を初めて実施した。この研究は、これらの壁画がいかに描かれ、保たれてきたのかについての謎を解明する重要な手がかりを与えている。
スペイン東部には、レバント美術と総称される先史時代の岩壁画のある700以上の遺跡がある。当時の最も高度な絵画と考えられているレバントの岩壁画には、通常小さな人間の姿や動物が描かれて …