スタンフォード大学のスティーブン・クエイク教授の研究室は、トーマス・エジソンの有名な研究所(いまはニュージャージーで博物館として公開中)を、生物学版として再現したように見える。降ろされたカーテンが、通路でブザー音やカチカチと音を立てている奇妙な機器に影を落とす。135もの特許を持つクエイク教授を見つけたとしても、大抵は色あせたポロシャツを着て、ベンチに眠っているだけだろう。クエイク教授が「メンロパーク(スタンフォード大学やパロアルト研究所があるシリコンバレーの街の名前)の魔法使い」として知られているのはそのせいだ。
クエイク教授は、9月、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOが6億ドルの資金を提供する新しい研究所バイオハブの共同社長に指名された。バイオハブにとって最優先のプロジェクトは、「細胞アトラス」と呼ばれる人間の細胞の広大な要覧の作成を支援することだ。クエイク教授とバイオハブは、人間の体内にある数百万の細胞をマッピングすることで、製薬会社と科学者が疾患を治療する新しい方法を発見できると考える、世界中の研究者を集めたコンソーシアムに属している。
教科書的には、人間の体内には、赤血球や脳内に永続するニューロン、眼内でデジタルカメラのように動作する光受容体等、約300種類の細胞が存在することになっている。しかし、本当の数は、はるかに多く、おそらく1万種類に達する、とクエイク教授はいう。ただ、これらの多くの細胞は、普通の顕微鏡では区別できない。
現在、科学者がやろうとしているのは、数千万もの人間の細胞を検査し、分子署名を見つけ出し、各タイプの体内での位置づけを記録することだ。この種の「地図」があれば、たとえば、新しい薬がどの細胞に影響する可能性があるかを、科学 …