ソイレント(忙しすぎて本物の食事を取る時間がない人向けの食品代替飲料)で最近、体調不良を引き起こす人が続出している。「ふやけたダンボール」の味というのは、販売元であるスタートアップ企業ソイレントに2000万ドルの資金を提供した投資家だけではない。
ソイレント製品が吐き気、下痢、おう吐等の症状を引き起こす原因という何十もの苦情が明らかになった後、最近ソイレントはフードバー(一箇所でたくさんの種類の食事を楽しめるフードコート的意味の「フード・バー」と、ソイレントの製品で、1本で多くの種類の食品を食べたのと同じ効果があるとされる「ソイレント・バー」をかけた意味)をリコールした。ソイレントの主力商品で、人間に必要な全栄養素をバランスよく摂取できるという飲料用粉末も、現在同様の問題を起こしている。
ソイレントの問題のバーを製造元は、ソイレントそのものが食中毒症状の原因ではなく、摂取者の体がバーに含まれる加工含有物のひとつ以上を「受け付けない」だけではないかと主張している。そうかもしれないが、ニューヨーカーの最近の記事が指摘するように、ソイレントのおいしいとは言いがたい味付けや数件の胃腸障害の例は、全般的に、新しいフードテック業界のズレっぷりと比べても、肯定的には捉えにくい。。
「食品2.0」の問題は、不味い場合があることよりも、私たちの食べ物がどう進化してきたかを見逃していることにある。テクノロジー業界は工学的観点で食べ物に関わろうとしており、正しい方程式、生産手段、原材料の組み合わせ、知力を使い、解決を前提として定義された問題に取り組んでいるのだ。ソイレントは、発案者であるロブ・ラインハートによって、21世紀バージョンのマナ(栄養豊富とされる旧約聖書に出てくる食べ物)のような、私たちに必要な全栄養素をひとつの簡単に消化可能な配合に凝縮するために開発された。しかし、そんな食べ物はアメリカや先進国の多くで口にしたい物とは根本的に正反対の側にある。
最近の食品文化の動向を見たとき、食べ物に関する顕著な方向性は、戦後の食品業界の生産システム(当時は未来的システムだった)に対する意図的な押し返しである。
数年前、食品関連の本の著者で、スローフードの提唱者であるマイケル・ポーランは「食べ物を食べる」よう私たちにアドバイスした。このシンプルな前提は、人気のある最新の食品陳列棚にある「食べ物のような物質」の山から、健康的で栄養価の高い商品を選びやすくしてくれる。シリコンバレーの資金によるフードテックの新しい味がダメというわけではない。だが、ポーランの主張は、ソイレント製品の信奉者がしていることと、それほど違わないのかもしれない(信奉者はソイレントを摂取することを「昼食後」と表現しており、既存の食べ物に批判的という意味では同じ流れの中にあると理解できる)。
いずれにしても、「食べ物を食べる」ことは腹痛に苦しまずにすむいいアドバイスだ。
(関連記事:Los Angeles Times, Ars Technica, the New Yorker, “Technology Is Eating Up Restaurants”)