今日、耳に入ってくる人工知能(AI)の話といえば、すべて深層学習関連だ。統計処理でデータ内にパターンを見つけ出す深層学習アルゴリズムは、視覚や聴覚といった人間の能力を模倣するのに非常に優れていることが証明されている。非常に狭い範囲に限られるが、人間の考える力も模倣できる。こういった能力がグーグルの検索、フェイスブックのニュースフィード、ネットフリックスのレコメンド機能に生かされている。そして、医療業界や教育業界などに変革をもたらしている。
現在は深層学習が世間のAIブームを一手に牽引しているが、その期間は人間の知能の再現を目指してきた人類の歴史のほんの一瞬にすぎない。深層学習がAI研究の最前線に立ってからまだ10年も経っていないのだ。AI分野の歴史を俯瞰すると、深層学習が近いうちに消え去るかもしれないことが分かる。
「数年後には深層学習が新聞や雑誌のトップ記事に掲載されるだろうと2011年に書いた人がいたら、『マリファナの吸い過ぎだよ』と言われたことでしょう」と『Master Algorithm』(マスターアルゴリズム:未邦訳)の著者であるワシントン大学のペトロ・ドミンゴス教授(コンピューター科学)はいう。
ドミンゴス教授によると、AI研究の世界では長い間、新手法の突然の登場と衰退が繰り返されてきた。10年ごとに異なるアイデアを巡る激しい競争が起こり、時折、スイッチが入ってコミュニティ全体が1つのアイデアに集中する。
MITテクノロジーレビューはAI界の変動を可視化したいと考え、最大規模の科学論文のオープンソース・データベースである『アーカイブ(arXiv)』を調査した。2018年11月18日までにアーカイブに投稿された「人工知能(artificial intelligence)」分野の1万6625件の論文の要旨をすべてダウンロードし、使われている単語を年別に追跡してAI分野の発展状況を見てみた。
arXivからダウンロードした論文数(2018年11月18日までの「人工知能」セクションで入手可能なすべての論文)
そして、分析結果から3つの大きなトレンドを発見した。1つめが1990年代後半から2000年代前半にかけての機械学習への移行、2つめが2010年代前半の始まったニューラル・ネットワーク人気の上昇、そして最後が、ここ数年の強化学習の成長である
ここで2つ、注意点がある。まず、AIという言葉自体は1950年代に遡ることができるが、アーカイブにAI分野が追加されたのが1993年とまだ新しいことだ。したがって、アーカイブで公開されているのは、AI分野の歴史における最近の論文だけだ。次に、毎年アーカイブに追加される論文はその時期のAI分野の研究のほんの一握りでしかないということだ。とはいうものの、アーカイブは研究の大きな動向を探り …