「ビットコイン泥棒」に終止符か?新しい追跡法がマネロン防ぐ
セキュリティ専門家であっても個々のビットコインの動きを追跡できないことは、暗号通貨が「マネロンの温床」と呼ばれる一因となっている。しかし、ビットコインによる資金洗浄の隠れたパターンを解明する新しいアルゴリズムが開発されたことで、状況が変わる可能性がある。 by Emerging Technology from the arXiv2019.02.13
ビットコインなど、ブロックチェーンを基盤とした暗号通貨が持つ大きな利点の1つは、取引がすべて記録され、誰でも閲覧できることだ。そのため、ある口座から別の口座にどれだけの通貨が送金されたかをいつでも知ることができる(ただし、その口座を誰が保有しているかは、必ずしも知ることができない)。
しかし、この透明性の陰には不愉快な秘密が隠れている。通貨の流れを見られる一方で、ビットコイン自体の追跡はできないということだ。
これは、ビットコインと、その最小通貨単位である「サトシ(satoshi、1サトシは0.00000001BTC)」が、1つ1つの識別可能な項目として存在するわけではないからだ。通し番号が印刷された1ドル札とは異なり、ビットコインは1つのアドレスから別のアドレスへと転送できる数量なのだ。ビットコインの追跡における問題点は、こんな例と似ている。ある人物が、10ドル分の小切手2枚を使って銀行口座に預金をし、ATMで口座から5ドルを引き出したとしよう。その際に、自分が引き出した5ドルは2枚の小切手のどちらから支払われたのか尋ねるようなもののだ。ビットコインの世界では、実世界と同様に、この質問に答えるすべはない。
犯罪によって盗まれた暗号通貨を追跡する上では、このことが問題を引き起こす。ビットコインが盗まれたときに、盗まれた通貨を追跡して返還請求をすることができないのだ。コンピューター科学者たちはこれまで、そのためのより賢いやり方があるのではないかという希望を抱き続けてきた。しかし、これまでに開発されたアルゴリズムでは、限定的な範囲で追跡することしか成功していない。
しかし、英国ケンブリッジ大学のロス・アンダーソン教授たちの研究で、その状況が変わりそうだ。アンダーソン教授らが構築したアルゴリズムは、19世紀の英国で定められたある法制度をもとにしている。その法制度とは、銀行が破綻した時に残された資金を分割するための簡潔な規則を定めたものだ。現在に至るまでこの制度は、さまざまな状況における資金割り当ての基本原則となっている。アンダーソン教授らによれば、これをビットコイン取引の公開記録に適用することで、これまで隠されていた犯罪関連の資金洗浄活動が持つ注目すべきパターンが明らかになるという。
この新しいアルゴリズムは「テイントチェーン(Taintchain、汚れたチェーン)」と呼ばれている。司法当局はこのアルゴリズムを使うことで、犯罪で盗まれた暗号通貨に対して、かつて存在しなかったような、まったく新しい強力な追跡方法を手に入れられる可能性がある。
まずは背景を少し紹介しておこう。暗号通貨の窃盗は拡大を続ける巨大なビジネスになっている。米国のサイバーセキュリティ企業であるサイファートレース(CipherTrace)の調査によれば、2018年の上半期には実に7億6100万ドル相当も …
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