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バイオ犯罪の専門捜査官をなぜFBIは設置したのか?
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On Patrol with America’s Top Bioterror Cop

バイオ犯罪の専門捜査官をなぜFBIは設置したのか?

自宅車庫でも可能になった遺伝子編集は生物伝染病を解き放つのか? 起きたとしてもエド・ユー特別捜査官には対処の準備がある。 by Antonio Regalado2016.10.21

友だちの家の地下室でペトリ皿に何か不思議なものが育っているのを見た? 怒りっぽい院生が妙な時間に病原菌研究室で働いているのを知っている?

エドワード・ユーに連絡した方がいいかもしれない。

米国連邦捜査局(FBI)ワシントンD.C.本部の大量破壊兵器本部の監督職であるユー特別捜査官は、事実上、米国トップの生物学警官だ。ユー特別捜査官の任務は、実験室で急速に進む開発を追跡し、研究が生物兵器を用いた攻撃につながらないことを確証することだ。

難しい任務だ。微生物のデオキシリボ核酸(DNA)操作の方法は、難なく入手でき、ますます操作方法は強力になっている。さらに、手作り(DIY)の動きが出てきており、遺伝子工学が大規模な機関から、家にある愛好家の実験室に移りはじめているのだ。自宅内の実験室は見張っておくのが難しい。

2005年にFBIに入ったユー特別捜査官を知る人びとの話では、ユー特別捜査官はFBIでの自身の役職の境界線を拡げ、政策立案者に盲点に目を向けるように働きかけ、親交を深めることで「インディーズ」な生物学者のコミュニティに潜入する、友好的で隠し立てのない運動をしてきた。

ユー特別捜査官は、科学者が何に懸念しているかを学べる、自身の情報源のネットワークを「探知の網」と呼んでいる。今のところ、カーチェイスに巻き込まれたことはない。生物学の世界では「無謀運転をしている人が911通報されることの方が多いほどです」という。

ユー特別捜査官の手法は、生物的脅威の問題に最適化している。原子力兵器は秘密を守ることや、ウランを爆弾の燃料に変える特別な高速遠心分離機を追跡することで防げる。しかし生物学の専門性は簡単には封じ込めない。難しいのは、病気を研究するのと同じ細菌、手法、技能が兵器にも応用されうるということだ。

結果:危険性を秘めたテクノロジーは手軽に手に入る。2月、米国はDNAを簡単に修正する新しい方法である遺伝子編集が大量破壊兵器となりうると公表した。一方で、この手法で細菌の遺伝子を修正するクリスパー(CRISPR)と呼ばれるホームキットはネット上で140ドルで売られている。

悪人が死を招くデザイナー病原菌を開発する、もしくは天然痘のような古い病原菌を改造することが、理論上可能になったのだ。現実には、そのような改変は簡単ではないが、近い将来には簡単になるかもしれない。「悪意のあることをするのが簡単になっています。このことは私たち全員を危険にさらします」とマサチューセッツ工科大学(MIT)合成生物学センターのネヴィン・サマーズ事務局長はいう。「生物学を学ぶ次の世代の子どもたちは、セキュリティに関する難しい課題を解決しなくてはならないでしょう」

FBIは捜査機関であり、国内情報機関だ。ということは、ユー特別捜査官は外国の諜報員よりは、国産の生物学的ユナボマー(米国で有名な爆弾事件の通り名)を監視していることになる。

生物犯罪は今のところ滅多に起きない。ただ、実際に起きた時には、科学的教育を受けた者の罪であることが多い。1996年、セント・ポール医療センターの実験室技 …

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