5Gをめぐる覇権争い
「インフラ」の先にある
中国の本当の狙い
中国は次世代モバイル通信「5G」の展開に本気だ。中国通信機器メーカー大手ファーウェイ幹部の拘束も、背景には5Gを巡る米中の覇権争いがあると見られている。中国の5G展開は何を意味するのか? 5つの視点で読み解く。 by Elizabeth Woyke2018.12.21
房山(ファンシャン)は、北京市の南西部を占める静かな行政区だ。もっとも有名なものといえば、つい最近まで石油化学プラントと鉄鋼プラントだった。この房山の閑静な集合住宅と線路の周は、いまや中国各都市を巻き込むモバイル革命の一翼を担っている。中国は現在、5Gテクノロジーの導入を世界最大規模で進めているのだ。
2017年秋、房山区人民政府と中国最大のモバイル通信事業者であるチャイナ・モバイル(China Mobile)は、10キロメートルに及ぶ道路に5G基地局を設置した。2018年9月以降、さまざまな企業が5Gネットワークを活用し、自律型移動手段と周辺施設間の無線通信をテストをしている。5Gネットワークはデータを車載センサー、路側センサー、そして道路を見下ろすビデオ・カメラから地域のデータセンターに送信し、データセンターは受け取った情報を分析して車に送り返すことで運転を補助する。
5Gはどのようにしてこれを実現するのだろうか? モバイル・テクノロジーはこれまで、1世代ごとに1つの斬新な新機能を導入するのが普通だった(1Gは携帯電話での通話、2Gはテキストの送信、3Gはインターネット接続、4Gはストリーミング)。だが、5Gでは大幅に進歩した機能が多数追加されることになる。5Gはまったく新しい無線インフラを活用することで、4Gと比べて最高で100倍もの高速通信を実現し、加えて遅延もほぼゼロになる。何十億もの機械、電化製品、センサーを低コストかつ低消費電力で接続できるように設計されているため、IoT(モノのインターネット)普及の追い風にもなる。
中国は5Gの重要性をよく理解している。第13次5カ年計画では、政府は5Gを「戦略的新興産業」および「新成長領域」と位置づけ、世界の製造業のリーダーになるという目標を概説した「中国製造2025計画」では「第5世代モバイル通信にブレークスルーを起こす」ことを公約している。
明らかに、中国は途方もない規模での5G展開に本気で取り組んでいる。それが意味するのは、次のようなことである。
どうして中国は5Gに全力を傾けているのか?
「国家の威信」が1つの理由だ。中国は5Gを、世界規模での無線技術開発をリードする最初のチャンスだと見ている。1990年代、欧州諸国は他地域に先んじて2G技術を導入した。2000年代初頭、日本は3G技術に先鞭をつけた。そして2011年、米国は4G技術の展開を独占した。だが今回、中国は先行者を追う立場ではなく、情報通信技術を主導する立場にある。チャイナ・モバイルの王建宙(ワン・ジャンツウ)前会長はテレビのインタビューで、1Gから5Gへと至る中国のモバイル通信業界の発展を「無から有へ、小から大へ、弱きから強きへと至る過程です」と語っている。
「金銭」という分かりやすい理由もある。中国政府は、5Gが中国のテクノロジーと経済分野にとって重要だと考えている。何年もコピー製品を作り続けてきた中国のテック企業の望みは、次のアップルやマイクロソフト、すなわち1兆ドルもの企業価値を有する革新的なグローバル巨大企業になることだ。
政府研究機関である中国信息通信研究院(CAIC …
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