試験中の自動運転タクシーはしばらく試験中のままな理由
ウーバーは、自社の自動運転タクシーが多くの人の移動手段を変えると考えている。しかし、自動運転車両を公道で走らせるまでには、まだ相当な時間がかかりそうだ。 by Will Knight2016.10.19
かつて数多くの工場や鋳造所が存在し、現在は店舗やレストランが立ち並ぶピッツバーグのアレゲニー川沿いの地区にある大きな倉庫の外で、私はこれまでとは違う技術革命の到着を待っている。自分の電話を確認して視線を上げると、「それ」がすでに到着していることに気付いた。戸惑うほど斬新な見た目のセンサーを屋根に搭載した白のフォード・フュージョンが、すぐそばでアイドリング中だ。ふたりの人が前列に真っすぐに腰かけ、ひとりはコンピューターを注視し、もうひとりは運転席にハンドルを握らずに座っているが、その車は制御されている。私は車に乗り込み、タッチスクリーンにあるボタンを押して深く腰を掛けると、自動運転のウーバーが動き始めた。
ピッツバーグ中心部に向けて勢いよく出発すると、車は路上に立ちはだかる駐車中のトラックと対向車との間を縫うようにして進み、車線にきちんと入った。これまでに自動運転車に乗ったことはあるが、路上で次々に起こる出来事に反応してハンドルやペダルが動く姿は、後部座席から眺めると依然として不気味だ。
これまで自動運転車両は、カリフォルニア州、ネバダ州、テキサス州等の高速道路で試験走行してきた。こうした地域とは対照的に、ピッツバーグには湾曲した道路、無数の橋、複雑な交差点、平均以上に降る雪やみぞれ、雨といった特徴がある。ウーバーのある役員が述べたように、もし自動運転車がピッツバーグを乗りこなせれば、その車はどこでも機能するはずだ。まるでこの理論を試すように、私たちが賑やかなマーケットストリートに入ると、2人の歩行者が道路の前方に飛び出してきた。車は歩行者からやや距離を置いて緩やかに停止し、歩行者がいなくなるのを待って、そのまま進み続けた。
後部座席の前方にあるスクリーンには、私たちの周囲の世界が鮮やかな色とギザギザの境界で表され、自動運転車独特の世界観が映し出されている。車全体に驚くほどずらりと配置された機器の一部が作り出した画像だ。屋根の上の大型回転ライダーを含む少なくとも7台のレーザー、20台のカメラ、高精度GPS、複数の超音波センサーが装備されている。車内のスクリーンでは、道路はアクアブルー、建物や他の車両は赤、黄、緑色で表示され、付近の歩行者は小さな投げ縄のような形で強調表示されている。スクリーンには車両がハンドルとブレーキ操作をしている様子も表示され、乗車している人が望めば、いつでも走行を中止できるボタンもある。2016年になって、ウーバーは乗車している人が後部座席からセルフィーを撮影することすら可能にした。走行が終わって間もなく、Eメールで届いたアニメGIFには、自動車の世界観と右上にはニヤニヤ笑う私の顔が映されていた。私たちが信号待ちをしている間、歩道の人々は立ち止まって手を振り、すぐ後ろにいたピックアップを運転する男性は、親指を立ててサインを送り続けている。
私の乗車体験は、ウーバーが厳選した利用客にピッツバーグ周辺で自動運転タクシー車両の乗車予約をしてもらうことを始めてから、これまでで最も注目された自動運転車両の走行試験の一部だ。タクシーを呼べるスマホアプリですでにタクシー業界の常識を覆していたウーバーは、今後数年間で保有車両の大部分を自動運転にすることを目指している。テクノロジーが人の移動方法を変えるほど進歩しているかは大胆な賭けだ。しかしある意味、ウーバーは賭けなければならない。ウーバーは今年の上半期で、主にドライバーへの支払いが原因で12億7000万ドルという莫大な損失を計上したからだ。自動運転車は「ウーバーにとって絶好の機会ですが、他社に実用化で先を越される恐れもあります」と、自動車産業のイノベーションを研究するマサチューセッツ工科大学のデビッド・キース助教授は語る。
ほとんどの自動車メーカー、特にテスラモーターズ、アウディ、メルセデスベンツ、ボルボ、ゼネラルモーターズ、グーグルや(報道によれば)アップル等の複数の巨大テック企業が、自動運転車両の試験走行を実施している。テスラの自動車は(ドライバーに対して、高速道路上のみでシステムを使用するよう注意喚起するとともに、 注意を向けてハンドルから手を離さないことを要求してくるが)、多くの状況下で自動運転できる。手ごわい競争相手だが、ウーバーにはテクノロジーを迅速に商用化する最適な機会がある。フォードやGMとは異なり、ウーバーは無人運転自動車が運転できると考えられるルートに限定して自動運転タクシーを配車できるからだ。グーグルやアップルとは対照的に、ウーバーにはすでに巨大なタクシーのネットワークが存在し、時間をかけて徐々に自動運転化を図れる。
ウーバーの役員にとって、その利点を想像することはいとも簡単だ。売上を配分することになるドライバーがいなければ、ウーバーは利益を生み出せる。ロボットタクシーはとても安く、そして使いやすくなって、誰もが自動車を所有する意味がほとんどなくなる可能性がある。その論理的結論を突き詰めると、自動運転が輸送自体を再編する可能性がある。ウーバーはすでに、複数の都市で食料品配送の実験をしており、また、長距離トラックの自動化システムを開発しているオットーというスタートアップ企業を8月に買収した。自動運転のトラックやバンは、発送センターや店舗から家庭やオフィスまで、目が回るようなスピードと効率で商品を輸送できる。私の試験走行の少し前に、ウーバーの自動運転部門の責任者のアンドリュー・レバンドゥスキー(グーグルの自動運転プロジェクトの出身で、オットーの共同設立者のひとり)は、「(流通網に起きるイノベーション)は、今後10年間でコンピューターが可能にする最も重要なことだと、私は真剣に考えています」という。
ウーバーは急速にその歩みを進めている。ウーバーは …
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