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R. Kikuo Johnson
Mark Zuckerberg’s Long March to China

マーク・ザッカーバーグはなぜ中国にこびを売るのか?

中国政府はソーシャルメディアと、そこでのユーザーの発言を統制するのが好きだ。だがフェイスブックは中国進出に積極的のようなのだ。 by Emily Parker2016.10.19

米国のインターネット企業にとって、中国は事実上の敗北の地だ。西洋のテック企業が中国の情報統制を緩めることを多くの人が願った。だがそれらの企業は中国市民の発言の検閲に積極的に参加した。ヤフーは民主化活動家に関する情報を中国当局に提供し、活動家は投獄された。マイクロソフトはメディアの自由を求める著名な活動家、マイケル・アンティのブログを閉鎖した。グーグルは中国で政治的にデリケートな検索結果を検閲した。2006年、3社は米国議会小委員会委員長から、中国政府への「嫌悪を催すような協力」について非難された。グーグルは中国本土の自社検索エンジンを2010年に停止し、検閲とサイバーセキュリティについて公式に抗議した。

フェイスブックは2009年から中国で規制されており、買収した写真共有サービス、インスタグラムも2014年に規制された。かつてソーシャルネットワークの中国進出は破滅的であるか不可能だと考えられており、中国専門家の中には現在もそう信じる人がいる。だがフェイスブックの中国進出は今や有望に見える。

レビュー事項
  1. フェイスブック
  2. WeChat

フェイスブック創業者でマーク・ザッカーバーグCEOは、中国政府に対して、進出のために必要なことをする意思があるというシグナルを送ってきた。フェイスブックをよく知る人々は進出が現実になると考えている。「進出するかどうかではなく、いつ進出するかです」とフェイスブックの初代パブリック・ポリシー責任者で現在はコンサルティング会社SPQRストラテジーズのティム・スパラパニ社長はいう。フェイスブックはこの記事へのコメントを拒否したが、昨年ザッカーバーグCEOは「世界中のあらゆる人々をつなげたいという目標を持ちながら世界一の大国を無視することはできない」と語っている。

グーグルによる希望に満ちた、しかし不運な結果となった中国進出から10年が経ったが、米国のインターネット企業は中国市場をよりいっそう魅力的で、かつ不可侵なものと考えているようだ。競争の激しい飽和状態の国内市場を持つ米国企業にとって、7億人に急増した中国のインターネットユーザーは貴重な未開発資源だ。だが中国共産党による情報統制の試みもより厳しくなっている。外国のWebサイトへのアクセスをブロックする「グレートファイアウォール」に加え、その多くがインターネット企業の従業員である検閲部隊による人力での検閲、サイバー警察によるブログやSNSの監視がある。それに今や米国企業は中国の巨大インターネット企業と競争しなくてはならないだろう。巨大企業テンセントのメッセージアプリ、WeChatのユーザー数は膨大だ。

ザッカーバーグCEOは明らかに中国を苦労する価値があるものと考えている。たとえそれがいくらかの「西洋的価値観」を投げ捨てることを意味してもだ。ザッカーバーグCEOは今年初めに北京を訪れ劉雲山中国中央宣伝部部長と会談し大きな注目を浴びた。中国の国営メディアは、フェイスブック創業者が中国でインターネットを発展させ、政府と協力してよりよいサイバースペースづくりに取り組むと約束したと報じた。劉部長は「中国特有の」インターネット統治の概念を強調した。その意味するところは明らかだ。中国版フェイスブックは間違いなく検閲される。今年の訪問はちょっとした「続編」だった。2014年にザッカーバーグCEOは中国サイバー管理局の鲁炜(ルー・ウェイ)局長をフェイスブックのオフィスでもてなした。その時、ザッカーバーグCEOのデスクの上には習近平国家主席の本がたまたま置かれていた。

このご機嫌取りでは、いくつか間の抜けたところもあった。ザッカーバーグCEOがスモッグの中、天安門広場で楽しそうにジョギングする自分の写真を投稿した時は、中国のソーシャルメディアでからかわれた。だが総体的にはザッカーバーグCEOは正しい判断をしているとブルッキングス研究所ジョン・L・ソーントン中国センターの李成センター長はいう。

「中国の指導者は人間関係にこだわります。指導者はマーク・ザッカーバーグCEOは中国の友人だと考えています。ザッカーバーグCEOは成功者で非常に中国に友好的です。さらにザッカーバーグCEOには中国人の妻がいて中国語も話します。これ以上、何が必要でしょう?」

仰せのままに

フェイスブックは米国のインターネット企業が中国共産党の支配を弱体化させるかもしれないという中国政府の疑念の払拭にまだ努めなければならないだろう。報道機関が「アラブの春」を「フェイスブック革命」と表現したことは、フェイスブックにとって何の恵みでもなかった。元諜報局員のエドワード・スノーデンがリークした文書は、アメリカのテック企業が米国政府による諜報活動の裏口となっているという中国の疑念をより深くした。

だが中国企業の世界進出にフェイスブックが果たすかもしれない役割は、中国政府のフェイスブックに対する見方を肯定的にするかもしれない。フェイスブックはすでに中国企業に対して外国での宣伝用に広告を販売しているが、中国版フェイスブックの開始により中国企業と外国顧客のつながりが強まる可能性がある。

中国には今や十分に成長したソーシャルメディア企業がある事実も、中国政府のフェイスブックに対する警戒を緩めさせているかもしれない。フェイスブックは現在支配的なWeChatなどのモバイルアプリに取って代わることはないだろう。WeChatはほとんどの外国人には正しく理解できないような形で中国国内に根付いている。中国人にとってWeChatは単なるコミュニケーションツールではなく、買い物をしたり、タクシーを呼んだり、診察の予約をしたりするためのものだ。米国では「私はフェイスブックをしていないけれど社会に参加している」といえる。だが中国でWeChatを使用しないでいるのはずっと困難だ。

ザッカーバーグの中国への呼びかけはすでにいくらかの懸念を引き起こしているが、ザッカーバーグは気にしていないようだ。

フェイスブックは成功のためにWeChatを押しのける必要はない。中国の巨大なインターネット市場の比較的わずかな部分を獲得するだけで、かなりの利益が得られるだろう。フェイスブックはより広い世界への架け橋を提供することで差別化を図れるはずだ。「WeChatはこの分野で競えません」とブルッキングス研究所の李センター長はいう。

「フェイスブックは世界的に有名ですが、WeChatが有名なのは中国国内だけです」

グーグルについても同じようなことがいえるかもしれない。2010年に中国の自社検索エンジンを停止したにもかかわらず、グーグルは中国で広告の販売を続けている。グーグルのアジア太平洋地域における表現の自由部門の元トップであり現在は香港中文大学のロックマン・ツイ准教授は「もしあなたが海外進出を考えている中国企業だったら、グーグルは依然として非常に優れた選択肢です」という。

今年6月、グーグルのサンダー・ピチャイCEOはグーグルが適切なやり方で中国に戻れるよう望んでいると語った。「我々は中国に進出して中国人ユーザーにサービスを提供したいと思っています」とコードカンファレンスでいった。ツイ准教授によると、グーグル・プレイストアが中国に進出するという「うわさ」があるという(グーグルはコメントを拒否した)。グーグルのモバイルOS、アンドロイドは中国で非常に人気だが、それを利用してグーグルが引き出せる利益は限られている。なぜならプレイストアが使えないからだ。

だがグーグルと中国政府間の厄介な歴史は大きなハードルを表している。「グーグルは明らかに信用されていません」と中国の検索エンジン「バイドゥ」の元国際コミュニケーション部門担当者で現在は中国を中心に展開するスタートアップメディア企業のSupChinaでポッドキャスト「シニカ」のホストを務めるカイザー・クオはいう。中国のインターネットに関する発言には定評があるクオは、フェイスブックの中国での見通しは明るいと考えている。

「来年中にフェイスブックはいくつかの重要サービスを中国で開始しそうです。中国高官とフェイスブック幹部による注目の取り決めがあります。このようなシグナルは無視できません」

忍耐

フェイスブックに中国政府からゴーサインが出た場合に加えられる条件についてはどうしても疑問が残る。フェイスブックは中国のパートナーと協力しなければならないのか。中国政府はフェイスブックに中国国内のデータを保存して当局がアクセスしやすいようにしろと要求するだろうか。

いくつかの技術的課題がすでに明らかになっている。フェイスブックはあらゆる人々をグローバルなネットワークに参加させたいと思っている。だが中国人ユーザーに提供されるサービスは、他の国の友人たちが享受するサービスとはかなり違ったものになるだろう。フェイスブックの元パブリック・ポリシー責任者のスパラパニは、これは難しいことではないと主張する。「何にでも事実上のフェンスを設置できます」とスパラパニはいう。たとえばフェイスブックはすでに自社サイトでユーザーが利用できる内容を国によってしばしば変えている。2015年、フェイスブックはフランスのユーザーだけにテロ攻撃の犠牲者の写真が見えないようにした。同じ年、インド国旗に少年が放尿している写真をインドでは見られないようにした。またイギリスの賭博委員会からの要請を受けて、慈善くじを宣伝するグループへのイギリスからのアクセスを制限した。

中国の民主化運動活動家を定期的に監視し続けることは、ずっと多くの論争をもたらすだろう。ザッカーバーグCEOによる中国への呼びかけはすでにいくらかの懸念を引き起こしている。ザッカーバーグCEOの最近の北京訪問は#suckerberg(suckは下手、などの意味)のタグのついたツイートを招いた。だがザッカーバーグCEOは気にしていないようだ。もし中国へすり寄っているという批判をザッカーバーグCEOが気にしているなら、子どもに中国名を授けてくれと習近平国家主席に頼まないだろうし(習氏は断った)、公の場で宣伝部部長と親しくすることもないだろう。

フェイスブックは”世界をよりオープンにして繋げる”ためにあるとザッカーバーグCEOはよく言う。この計画で中国は重要な要素だ。グーグルは2006年の中国進出の際、同様の主張をした。つまり、ないよりマシだということだ。中国の検閲に協力するなどの犠牲を払う必要があるとしても、つながるのはよいことだ、とグーグルはいった。

米国人はこの主張に納得するだろうか? たぶんしないだろう。ジャーナリストは痛烈な批判記事を書くだろう。活動家とソーシャルメディアのユーザーは嘲笑し、政府関係者は懸念を示すかもしれない。だがユーザーはフェイスブックを使い続けるだろう。

エミリー・パーカーはウォール・ストリート・ジャーナル中国担当で、米国国務省のアドバイザー。著書に『ネット友だちが誰かわかった:インターネットの地下からの声(Now I Know Who My Comrades Are : Voices from the Internet Underground)』がある。

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