米国政府が進める「がん撲滅大規模計画」は優れた構想と怪しいアイデアが混在
生命の再定義

The Best—and Worst—Things About Joe Biden’s Cancer Moonshot 米国政府が進める「がん撲滅大規模計画」は優れた構想と怪しいアイデアが混在

米国政府のがん撲滅最新計画は、感動的なものから非常に疑わしいものまで幅広い by Jamie Condliffe2016.10.18

米国のジョー・バイデン副大統領が進めるがん撲滅大規模計画は、がんの防止や診断、治療の進歩を倍に速めるために提案された。この計画のいくつかの点は傑出しており、またいくつかは優秀とはいえず、成功しそうにない。

バイデン副大統領の計画の基本方針は、少し前から知られている。腫瘍DNAの塩基配列決定の解明を積極的に推進し、データ共有を普及させることで、患者のために正確な治療を提供することだ。しかし10月17日、バイデン副大統領は計画が実際にどう実施されるかについて詳報を発表した。構想の5つの主要目標は、新しい科学的躍進の後押しから、患者による利用と介護の改善にまで及び、壮大ではあるが、多くは曖昧だ。

編集部で精査したところ、前途有望なアイデアがいくつかあるが、疑わしい点もある。

新しい「血液プロファイリング・アトラス・パイロット」は、いわゆる液体生体組織検査の結果を用いて、初の大規模でオープンなデータベースを作り出す、感動的な試みだ。液体生体組織検査とは、数滴の血から、がんのデオキシリボ核酸(DNA)を特定するための血液検査だ。データは、初期段階では13件の異なる進行中の研究から提供され、全体はシカゴ大学とセブン・ブリッジズ(バイオ医療のデータ分析会社)によって精選される。十分なデータを蓄えれば、簡易な血液検査により、発生段階にあるがんを発見できる(この手法はすでに腫瘍が再発しそうかの判定の支援に使われており、成功している)。

米国がん撲滅大規模計画の報告を話し合うジョー・バイデン副大統領とバラク・オバマ大統領

本件とは別に、米国航空宇宙局(NASA)は、米国国立がん研究所と協力して、粒子線照射治療の生物学的影響を調査することを発表した。粒子線照射治療とは、従来の放射線治療より新しく、より的を絞った治療法だ。陽子線治療はすでに中国で人気だが、その効能と副作用についての研究は少ない。NASAは、治療に必要な高価な施設が妥当あのかどうかを評価する。

ウーバーとリフトは、がん患者に安価な交通手段を提供している現在の試運転を拡張すると発表した(現在、25%の患者が交通事情のために病院予約を逃したり、再調整したりしている)。リフトはボストンで試行中のサービスを、2020年までに現在展開中の全都市に広げるという。ウーバーは保健医療関係の輸送と、緊急ではない医療輸送を改善するために500万ドルを投資するという。この分野の実用化はまだ少し先かもしれないが、タクシーが自律運転になればさらに興味深い展開だ。

いくつかの目標は、報告書が提案するよりもやや懐疑心をもって見るべきだ。とりわけ、「携帯機器とウェアラブル テクノロジーの実装をがん診断用に拡張」する野望は、実力に見合わないといえる。テーマとしては確かに流行しているが、現在のウェアラブル デバイスの多くは保健医療に応用するには十分な信頼性がない

もちろん、将来変わる可能性はある。アルファベット(グーグル)の保健医療系子会社ベリリは、特に心機能を測定する装置を開発している。しかし今のところ、ベリリの野望である「顕微鏡でしか見えない大きさの細胞の変化を検知」し、組織酸素付与を測定することは、楽天的すぎる。

しかし少なくとも、この計画は野心的だ。文字通り「大規模計画(ムーンショット)」なのだ。

(関連記事:Report of the Cancer Moonshot Task Force, “The Long Road to Obama’s Cancer Moonshot,” “The Rocket Fuel for Biden’s ‘Cancer Moonshot’? Big Data,” “I Saw Alphabet’s Health Watch,” “Liquid Biopsy”)