ボストンの港湾地区にある小さな研究室。レーザーやレンズ、鏡、絡み合う配線が入り乱れる中、1つの小さなチップが人工知能(AI)の世界に大きな影響を与えようとしている。
ここは、まったく新しいAIアクセラレーター・チップを開発しているスタートアップ企業、ライトインテリジェンス(Lightelligence)の研究室だ。機械学習に必要な核となる数学的計算を実行するのには通常、電子が用いられるが、同社の試作デバイスには光が使われている。
理論的には、光の速さで情報を伝達することで、現時点で最高レベルのAIチップの数百倍の速度でAIアルゴリズムを実行できるはずだ。生のコンピューターのパワーが機械学習においてそれほどの違いを生み出すということは、アルゴリズムも圧倒的に強力かつ高性能になるということだ。ただし実際には、光学チップの速度はコンピューターのメモリのような従来の部品とのやり取りの速度によって決まってくる。ライトインテリジェンスは決められたセットアップの中で、できる限りの速度を出せるアルゴリズムを書く必要がある。
脳の神経細胞の構造に着想を得て考案された機械学習の一種である深層学習は、ここ数年、テック業界に旋風を巻き起こしている。深層学習は、画像の分類やテキストの翻訳といった重要なタスクを機械に学習させるための、非常に強力な方法であることが分かっている。企業は、深層学習をより効果的に活用しようとしのぎを削っているのだ。
深層学習の隆盛によって、核となる数学的計算に最適化された新チップの設計に関して、商業的にすでに大きな注目が集まっている。そして現在、コンピューティングに対しても、今までとは根本的に異なるアプローチが生み出されようとしている。
ライトインテリジェンスを訪れた私は、自信に満ち溢れた20代のCEO(最高経営責任者)であるイチェン・シェンに話を聞いた。フリースのセーターを着て、口を大きく横に広げる笑みが印象的なシェンCEOは、十数人ほどの従業員を一人ずつ紹介し、研究室を案内してくれた。
光はAIに大きな優位性をもたら …