KADOKAWA Technology Review
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GE’s Bridge Over the “Valley of Death” for Innovation

巨大組織がイノベーティブであるため、GEは工場に研究所を作った

巨大メーカーは、48年前に操業のタービン工場の隣に、研究開発施設を7300万ドル投じて新設した。目標はより優れたイノベーションの加速だ。 by Nanette Byrnes2016.10.18

サウスカロライナ州グリーンビルにあるGEパワーの工場。天井高約20m、フットボール場数個分の広さがあるメインホールで工員が組み立てているのは、幅3m以上、長さ10mほど、重さ約254トンの高耐久性ガスタービンだ。中でも最大のタービンは、一般的な発電所に設置すると米国の家庭50万戸に十分な電力を供給できる。工程は複雑で、タービン1基の組み立てに6週間かかる。

近隣の建物では、GE製タービンの何百もある小さな部品のひとつが製造されている。部品の名はフレックスチップ。大きさは350ml缶ほどだが、タービンの燃料システムの鍵となる重要部品であり、設計や製造方法も重要だ。

フレックスチップは、グルーンビル事業所に新設された研究開発センターが生んだ最初の製品のひとつだ。世界最大級の電機メーカーであるゼネラル・エレクトリックが、テクノロジーを革新し、実用化しようとしているかの一例といえる。先端製造プロセスに重きを置く研究施設を工場の隣に設置することで、GEは工場内の優れたアイデアが開発を担う研究所に届きやすくし、研究所の新しいアイデアが、試作と製造プロセスに移行しやすくなると考えているのだ。

プロセスのすべては絶え間なく実施される。顧客はGEにイノベーションを加速することを期待している、というのはカート・グッドウィン所長。グッドウィン所長は施設を「死の谷に架かる橋です。片方の岸に素晴らしいアイデアを生み出す研究センター、そのアイデアを対岸で製造部門が(市場に向けて)準備するのです」という。イノベーションは時として、研究所と工場と間に、10年間とどまったままのこともある、とグッドウィン所長はいう。

GEの「橋」である先端製造拠点の敷地面積は約1200平方メートルあり、開設には7300万ドルをかけた。表向きの機能は、3Dプリンターやレーザー、ロボットアーム等、GEが試験中の製造テクノロジーを展示するショールームだ。展示物のすぐ背後に、高い天井とコンクリートの床がある、広大な工場空間へと続く扉があり、そこで研究者とエンジニアは数々の実験により、ビジネスの特定ニーズの解決に、テクノロジーを使う方法を探そうとしている。

フレックスチップは、研究所からタービン工場での製造に至った、前途有望なアイデアのひとつだ。機械工学と構造設計の学位を持つ付加製造エンジニアのキャシー・ハートは、新部品の製造方法を考えるよう任され、金属表面の下に長くて小さい穴を空け、部品の機能を効率化するアイデアもとに設計した。もし従来の金属鋳造による製造方法を使っていれば、製造には長い時間がかかったが、GEはフレックスチップの製造に付加製造(3Dプリンターによる製造手法のこと)を採用した。

付加製造に熱心なGEでも、タービンを3Dプリンターで製造したのはグリーンビルの工場が初めてだ。

ハートのチームが製造までに与えられた時間はわずか6カ月。数々の試行錯誤があったが、チームは5カ月で基準を満たす部品を作り上げ、現在では10台のプリンターがフル稼働する製造ラインで、95%の部品が設計仕様を満たしている。「誰でも学習し、適応できるまでには失敗の段階を経るものです」とハートはいう。

複数の機械が連続動作しており、プリントにはそれぞれ60時間かかる。8月前半の施設ツアーでは、2人のオペレーターと上長1人が機械を監視していた。作業着と防毒マスクを身につけたオペレーターがプリンターに近づく。大きくて四角い機械には、一方の側にあるガラス扉があり、その内部にプリント用の空間がある。オペレーターはプリンターを清掃し、プリントのためのコバルトクロム等の材料を補充し、プリントの進捗を監視していた。

フリップチップで成功したグッドウィンのチームは、製造ラインに向けの新しいアイデアを試している。「現在の課題はは製造用の素晴らしいテクノロジーを探求するよりも、特定の方法で何かをすることを考えてきた人に、もっと広い意味で考えてもらうことです」とグッドウィンはいう。

「私たちのチームが、当社の他の部門が何を作れるのかについて、異なる観点から考えることを学ぶ必要があるのです」とグッドウィンはいう。

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ナネット バーンズ [Nanette Byrnes]米国版 ビジネス担当上級編集者
ビジネス担当上級編集者として、テクノロジーが産業に与えるインパクトや私たちの働き方に関する記事作りを目指しています。イノベーションがどう育まれ、投資されるか、人々がテクノロジーとどう関わるか、社会的にどんな影響を与えるのか、といった領域にも関心があります。取材と記事の執筆に加えて、有能な部下やフリーライターが書いた記事や、気付きを得られて深く、重要なテーマを扱うデータ重視のコンテンツも編集します。MIT Technology Reviewへの参画し、エマージングテクノロジーの世界に飛び込む以前は、記者編集者としてビジネスウィーク誌やロイター通信、スマートマネーに所属して、役員会議室のもめ事から金融市場の崩壊まで取材していました。よい取材ネタは大歓迎です。nanette.byrnes@technologyreview.comまで知らせてください。
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