コンピューティング革命超初期の1958年、米海軍海事技術本部(ONR:Office of Naval Research)は記者会見を開き、コーネル航空研究所(Cornell Aeronautical Laboratory)の心理学者フランク・ローゼンブラットが考案した装置を発表した。ローゼンブラットはこの装置をパーセプトロンと呼んだ。ニューヨーク・タイムズ紙はパーセプトロンを「将来的に歩行、会話、視覚、筆記、自己複製、自己存在の意識が可能になると(米海軍が)期待する電子計算機の萌芽」だと伝えた。
のちに、この主張は誇張だったことが分かったが、ローゼンブラットが開発した装置は、現在でも大きな可能性を秘めた人工知能分野の研究を爆発的に推し進めた。
パーセプトロンは単層ニューラル・ネットワークだ。近年、注目されている深層学習ネットワークはパーセプトロンが起源となっている。ローゼンブラットが考案した装置は騒ぎ立てられたほどの可能性を達成することはなかったが、パーセプトロンの流れを引き継ぐさまざまな研究には大きな期待が寄せられている。
現在、「量子コンピューティング」という新たな情報処理革命が進んでいる。ここで、興味深い問いが浮かぶ。「量子コンピューターにパーセプトロンを実装することは可能なのだろうか?可能であれば、どの程度の性能を実現できるだろうか?」
その答えとなり得るものをイタリア、パヴィア大学のフランセスコ・タッキーノの研究チームが導き出した。タッキーノの研究チームは世界で初めて量子コンピューターにパーセプトロンを実装し、単純な画像処理タスクで性能を試したのだ。
もっとも単純なモデルのパーセプトロンでは、一次元配列(数字の組み合わせ)を入力し、入力した配列に重みの一次元配列を乗算し、数字を1つ出す。出た数字がしきい値を超えると1が出力され、しきい値以下だと0が出力 …