東ボルティモア(米国メリーランド州)にあるリーバー脳発達研究所(LIBD)の業務用冷凍庫には、存命中に心的外傷後ストレス障害と診断された患者の多数の脳が、重要組織の保存のために保管されている。開所から6年間で集めた2000個近くの脳の一部にすぎないが、LIBDが所有する81個の脳は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断済みの検死用脳としては世界最大のコレクションだ。
LIBDの科学者は統合失調症と、関連する脳障害を研究しており、PTSDのコレクションについて意欲的な計画を立てている。心的外傷を負った後にストレス障害を発症するリスクを高める遺伝的変異を特定し、薬剤による治療の効果を上げる脳の部位を見つけようとしているのだ。
現在、PTSD患者はトークセラピーや心理療法と、障害の症状を和らげるように調合した抗鬱剤の組み合わせで治療されている。米国の退役軍人省の推定によれば、どの年でも、約800万人の成人がPTSDにかかっている。世界的に見ればこの数はさらに増え、戦闘員以外にも、難民や戦争を経験した民間人、DVや暴行、性的搾取の被害者なども含まれる。
死後の脳を調べることはPTSDの研究にとって重要だ、というのは研究所で臨床科学を担当するジョエル・クラインマン副所長だ。科学者や医療専門家がPTSDについて知っているのことの大部分は、障害の症状を観察することで得られたので、PTSDを発症した人の脳内で起きる分子や細胞の変化はわかっていない。クラインマン副所長によれば、変化は「人間に特有」なため、動物では研究できないとい …