オバマ大統領は、ホワイトハウスで次期大統領を待ち構える面倒な課題のひとつに人工知能をあげた。
近年の人工知能(AI)の進展に伴う影響は、 10月13日にピッツバーグで開かれた、ホワイトハウス主催のテクノロジー・カンファレンスで大きな論点になった。壇上のオバマ大統領は、ピッツバーグで乗客を乗せて試運転中の自動運転型ウーバーは、今後起きる複雑さのよい例だと話した。歓迎すべき便利さである一方、自動運転型の自動車には否定的な側面もあるというのだ。
「アメリカの人口のかなりの割合が自動車を運転することで生計を立てています。それも、なかなか良いレベルの生計です。ですから、人びとが自動運転型の自動車の普及が何を意味するのか不安に思っていることを理解しようではないですか」
今週ホワイトハウスが発表したAIの未来に関する報告書は、より知的なソフトウェアによって変化を強いられる数々の社会的、経済的分野をあげている。テクノロジーによるメリットについては肯定的ではあるが、報告書は、たとえばロボット工学が人びとの仕事を奪うことや、警備に使われるアルゴリズムの偏見など、予期されるデメリットについても論じている。報告書は一般により開かれた議論と、問題に対する政策立案者による取り組みを求めている。
カンファレンスは主に、AIによる影響が大きい事柄を強調した。研究者は、知的交通システムの構築、医療診断の向上、自然保護のために機械学習を用いることについて話し合った。
しかし、パネルディスカッションも、会議の合間の廊下での会話も、失業問題をはじめとする、今後政府が直面する課題に向けられていた。現在の大統領戦でどれだけ雇用問題が傑出して議論されているかを考えれば、AIが労働市場で果たす役割は重要な政治的課題になるだろう。
ホワイトハウスは、未来の大統領はどのようにAIテクノロジーが発展し、また活用されるかを模索するべきとしたが、一方で、明確に「どのように」かは不透明だとを認めた。デニス・マクドノー大統領首席補佐官は「これは転換点なのです。現在の進歩は、前進を続けるか、もしくは私たちが適切に扱わなければ、その歩みを止めてしまうのです」という。
カンファレンスに出席したAIテクノロジーに関わる学術研究者や企業研究者は、概して、最近のAIの進展は、職場への大きな、そしてまだ見知らぬ変化を示している、と同じ見解を持つ。経済学者は、AIと自動化が仕事を根こそぎ奪うか、もしくは不平等を加速させるのか、まだ不確かだ。( “How Technology is Destroying Jobs”、“Who Will Own the Robots”参照)。
IBM基礎研究所のグルドゥス・バナバー副社長(認知コンピューティング担当)は「あらゆる産業革命は混乱を経て起きてきました。この場合も同じです」という。しかし、バナバー副社長も他の参加者も、人間の代わりではなく、人間の同僚として職場に入るAIシステムもあるだろうと論じている。多くの人びとが機械学習アルゴリズムと共同で仕事をするだろう、というバナバー副社長は「人びとは何よりもまず、機械は自分たちの日常の一部なのだと学ばなければならないのです」と述べた。
マイクロソフトのジャネット・ウィン副社長は、機械学習アルゴリズムの能力向上により、マイクロソフトはすでに変化しているという。ウィン副社長は、あらゆる種類の会社が、職場で求められる能力の大きな変化に対し、調整することになると予測しており、「職場以外でも、人びとが何を学ぶべきか考えることになるでしょう」という。
AI搭載の新しいテクノロジーには規制制度への対応が必要だ。カーネギーメロン大学コンピューターサイエンス学部のアンドリュー・ムーア学部長は、自動運転型の自動車を重要な例として挙げた。テスラのような企業が、強い野心をもって自動運転の商業化を進めるのを懸念しており、「テクノロジーを本当に制御できる側が、間違いを犯しています」という。政府はすでに、自動運転型の自動車とその関連テクノロジーの指針を発表したが、その内容はまだ曖昧だ(「自動運転にブラックボックス 米国が新規制を発表」参照)。
さらに微妙な問題は、機械学習アルゴリズムや、元になるデータによる社会的偏見の可能性だ。スタンフォード大学AI研究所のフェイフェイ・リー所長は、このことはオンラインで「おばあちゃん(grandmas)」の写真を検索するだけで簡単に立証できるという。上位検索結果は全て白人だ。
リー所長はAIとコンピューター科学の研究に携わる人びとの多様性を増すことで、このような問題を根絶できることを望むという。
以上の課題をすべて考えるのに加えて、次期大統領はさらに、いかにAIの継続的進歩を可能にするかをも考えなくてはならないだろう。最近のAI進歩を進める機械学習の手法開発分野の主要人物であるフェイスブックのヤン・レカン役員(AI担当)は、政府の資金提供を受ける研究が、現在のAIブームにおいて重要な役割を担ったという。次の大きな躍進を可能にするには、継続的な投資が必要だとレカン役員は話す。