タップ(Tap)は弾力性のあるメリケンサックのように指にはめる片手入力装置だ。Bluetoothでスマートフォンに接続して使う。ユーザーを不格好なコンピューター・キーボードから開放することを目指した、どこででも自由に入力できるタイピング・インターフェースがタップだ。プロモーション・ビデオには、タップを手に付けた人たちが微笑みながら、片手を足の上に乗せたり、腕に乗せたり、さらには(冗談だろうが)男性の額に乗せたりしている様子が映っている。
そうだ。見たところいいアイデアだ。だが私が使ってみたところ、タップは使っても面白くも、楽しくもなんともなかった。従来のQWERTY(クワーティ)キーボードとは違って、タップはいろいろ考えないと使えない。本能的に分かりにくい方法で指を組み合わせて文字を打たなければならないからだ。たとえば「A」は親指、「B」は人差し指と小指、「C」は人差し指以外の指全部だ。
私は簡単な文字選択ゲームで遊びながらタップの配列を覚えたが、すぐに疲れてしまった。自分の太ももの上でタイプすることはほとんど不可能で、平らな固い面でない限りタイプできなかった。私のツイートは、もっとも長いものでも数語程度だが、それでも入力するのに何分もかかった。単に「Duh!(あたりまえじゃん!)」と入力するだけでも大変なうえに面倒くさかった。1週間も経たないうちに私は敗北を認め、昔からの大きなQWERTYキーボードに復帰して、触って反応が感じられることの有難さに癒された。
タップは、私には使いにくかったものの、テクノロジーの発展についての重要な問いを投げかけている。私たちがデータを入力する方法は、声やタッチスクリーン、ペン型入力装置などたくさんあるが、それでも一番よく使うのは、150年前に発表され、初めて商業的に成功したタイプライターに非常によく似たキーボードなのだ。いまやポケットに入る高性能コンピューターだって作れるのに、なぜこのキーボードを使い続けてきたのだろうか?
QWERTYキーボードの奇妙な歴史
その答えは、部分的には慣れだ。大きくて不格好なキーボードこそ、私たちがタイピングを習うのに使ったものだし、親たちも祖父母も(おそらくは曾祖父母も)使った。使って快適なのだ。ニューヨーク大学のケビン・ウィーバー准教授(理学療法)は、現在、人間工学的に厄介な問題が起きる可能性のある入力機器は、QWERTYキーボードを無視して設計されていると話す。
「悪循環に陥っています」と言うのは、米国ブリガム・ヤング大学のフランク・ジョーンズ准教授(コンピューター学)で、ドットキー(DotKey)という指追跡式タッチスクリーン・キーボードの開発者でもある。「私たちは、どこにでもあるという理由で子どもに QWERTYキーボードの使い方を教えます。なぜQWERTYキーボードがどこにでもあるのでしょうか? それは私たちが子どもに教えるからです」。
しかし、いつもこうだったわけではない。初期のタイプライターには、あらゆる種類の創造的なキーの配置、組み合わせがあった。しかし、最後まで残ったのは、ウィスコンシン州のジャーナリストで発明家の、クリストファー・レイサム・ショールズが大部分を開発し、銃製造業者のE・レミントン&サンズ(E. Remington & Sons)が1874年に販売を開始したショールズ&グリデン・タイプライター(Sholes & Glidden Type-Writer)だ。
ショールズ&グリデン・タイプライターは最初の大衆向けタイプライターとなり、キー配列は現在使っているQWERTY式とほとんど同一だった。ただし、大文字しか打てなかったので、ショールズの初期の手紙を読んだ人は、彼に怒鳴られているかのように感じたものだ。
諸説はあるが、ショールズがどのようにして1878年に特許として認められたキー配列を考え出したのかは明らかでない。ただし、彼は印刷業界で職業訓練を受け、新聞の発行者であったので、植字工が文字を入れたトレーを使用頻度によってどのように配列していたかをよく知っていた。
2011年に京都大学の研究者たちは、QWERTY配列はタイプライターの初期の顧客であり、モールス符号で書かれたメッセージをタイプライターで文字に打ち直していた電報業者の慣行に合わせたキー配列から派生したものだとの説を発表した(たとえば、モールス符号でよく混同されるいくつかの文字はキーボード上のすぐ近くに配置)。よく使われる文字を早く連続して打ってもタイプライターが詰まらないようにするためにQWERTY配列が選ばれたという、よく聞く都市伝説に京大の研究者たちは異議を唱えているのだ。どちらにせよ、1893年には企業規模の大きなタイプライター製造業者数社が合併してユニオン・タイプラ …