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「多遺伝子リスクスコア」×スマホで変わる予防医学の未来
Nicolas Ortega
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「多遺伝子リスクスコア」×スマホで変わる予防医学の未来

これまでの遺伝子検査では単一遺伝子変異に伴う希少疾患の検知しかできなかったが、最近になり、多数の遺伝子変異の組み合わせを調べてより一般的な疾患のリスクを評価する検査が可能になってきた。「多遺伝子リスクスコア」は、病気にかかるリスクを予測し、健康の改善に役立つ可能性がある。 by Ali Torkamani and Eric Topol2018.10.30

2018年初頭、消費者直販型の遺伝子検査でDNAの分析を受けた人の数は推定1200万人を超えた。数カ月後には、その人数は1700万人に増加した。その間にも遺伝学者とデータ科学者は、遺伝子データから有益な情報を得る手法を改良して、心臓発作のリスクが平均よりも3倍高い人を予測したり、乳がんの家族歴もBRCA遺伝子変異も持たないにもかかわらず乳がんになるリスクが高い女性を特定したりできるようになった。いくつかの技術的進歩により、大量のデータを検索し、理解する方法は劇的な変化を遂げた。一方で、スマートフォンは、人々が十分な情報に基づいた決定を下すためのデータにアクセスする際の事実上の「入口」としての地位を確立すべく、たゆまぬ進歩を続けている。

遺伝子検査とスマホの進歩は、個人的な遺伝情報を入手したり利用したりする方法を変えていくだろう。人々は、医師の指示に従って受け身で検査を受けるのではなく、自身の健康に関する意思決定に役立てるために、積極的に遺伝子情報のデータを利用するようになるはずだ。

多遺伝子リスクスコア

いくつかの例外を除いて、現在の遺伝子検査は希少疾患のみを検知する。これらの検査では、希少疾患を引き起こす稀な単一遺伝子変異を特定するからだ。

しかし、ほとんどの疾患は、単一遺伝子の変異によるものではない。多くの場合、100以上もの遺伝文字(塩基)の変異の組み合わせが、心臓発作、糖尿病、前立腺がんなどの一般的な病気のリスクを示す。この種の変異を調べる検査が最近可能になってきた。「多遺伝子」リスクスコアとして知られる指標を算出する検査だ。

多遺伝子リスクスコアは、母親と父親から受け継いだ塩基の変異の組み合わせから算出され、両親の家族歴に明らかな傾向が認められないような病気のリスクを指摘できる。さまざまな病気に対する数多くの多遺伝子リスクスコアの研究により、(心臓発作の場合であれば)喫煙や高コレステロールといった従来の既知のリスク因子からは得られないような洞察が得られることが明らかになっている。

多遺伝子リスクスコアは避けられない運命を示すものではない。80代や90代まで生きる多くの人が、病気のリスクを抱えながら実際は病気にかからないような場合もある。それでもなお、多遺伝子リスクスコアは、特定の病気に対する人々の見方を変え、病気にかかるリスクを理解するのに役立つ可能性がある。

単一遺伝子の変異が引き起こす希少疾患の遺伝子検査では、陽性または陰性の結果を単純明快に得られる。これに対し、多遺伝子リスクスコアの結果は、非常に低いリスクから非常に高いリスクまでの連続的な確率分布で示される。多遺伝子リスクスコアは、一般的な集団によく見られる遺伝文字の変異の組み合わせから算出されるため、あらゆる人に関連する。問題は、そうして得られた情報を …

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