KADOKAWA Technology Review
×
「AIは医師を置き換えない」 ある医療現場からの報告
Drawing by Ag, Age 7, copyright Thomas G. Murphy MD 2011
ニュース 無料会員限定
AI can’t replace doctors. But it can make them better.

「AIは医師を置き換えない」 ある医療現場からの報告

人工知能(AI)の進歩により、医者は不要になるだろうと主張する人々がいる。しかし、サンフランシスコの小児科医である筆者は、そうした主張を否定すると同時に、あふれるデータへの対応でオーバーワーク気味の医者をAIが解放することで、患者に向き合う時間を増やせるだろうと述べている。 by Rahul Parikh2018.11.02

数年前、シリコンバレーの投資家ビノッド・コースラは「我々が必要とするのは医者か、アルゴリズムか?」と題する挑発的な記事を書いた。コースラは、医者は人工知能(AI)に敵わないと主張した。医者は患者と雑談し、いくつかの症状を集め、手掛かりを求めて身体を検査し、処方箋を出す。それが(もしかすると、たまたま)正しい治療につながることもあるが、医者は利用可能な情報のほんの一部に基づいて行動しているにすぎない。コースラは記事の中で、アルゴリズムの方が医者よりも能力が高いと述べた。

私はサンフランシスコの湾岸地帯で医療に従事している小児科医だ。この地域では長年にわたってコースラのような起業家が、試験的なテクノロジーやソフトウェア、ハードウェアを医者たちに売り込んでいる。私がある程度厳然として言えるのは、コースラの主張が、医療以外の分野の知識しか持っていない門外漢の意見であるということだ。

確かに、AIは医師が病気を診断し、治療するのに役立つ可能性がある。大量のデータを収集して整理し、明確かつ簡潔な方法で提示することで、医療行為のプレッシャーや複雑さが原因となって医師が不正確な判断をする確率を下げられる。放射線科医や病理医のように、仕事が診断に特化している一部の医師にとって、この種の飛躍的進歩が自らの存続を脅かす可能性があることは間違いない。たとえば、研究者たちは10年前に、乳がんを検出するAIの能力が放射線科医の能力に劣らないことを示した。

1500人から2000人の患者を管理しているプラマイマリケアに従事する私のような医者にとって、AIは機会を提供してくれる。私は人々とつながりを持ち、医療に貢献するために医学部に進学した。しかし今では、情報を取り込み、それを患者に与え、薬を処方し、投与量を調整し、検査を指示するだけの、過分な給料をもらっている経理事務員のような気がすることが多い。だが、AIを診察室に持ち込めば、そうした医者たちの手に、医術を取り戻す機会が開かれる。AIを使えば、患者に対する理解を深め、いかに一つの疾患がさまざまな患者にそれぞれ独自の影響を及ぼしているかを学んで、よりよい経過に向けて患者を指導する時間を持てる可能性がある。

小児期に最も多い慢性内科的疾患である喘息のためにAIが何をできるかを考えてみよう。米国では600万人の子どもが喘息を患っている。2013年には、喘息のせいで子どもたちが学校を休んだ日は全体で1400万日に及んだ。薬剤、医師の診察、救 …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. What’s on the table at this year’s UN climate conference トランプ再選ショック、開幕したCOP29の議論の行方は?
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る