寿命はどこまで延びるのか?
老化研究の第一人者に聞く
加齢に伴う老化を阻止することは、多くの人々の願いだ。老化に関する研究の第一人者であり、最近、老化予防の新薬を開発した企業の創業者の一人であるジュディス・キャンピシ教授に、新薬により老化をどのように防げるのか、人間の寿命は今後のどこまで延びるのか、最新の見解を聞いた。 by Stephen S. Hall2018.10.29
ジュディス・キャンピシ教授は、1990年代の初めから、老化に関する生物学を主導してきた。キャンピシ教授によるがんの基本的メカニズムに関する当時の研究で、老化と呼ばれる段階に入った細胞はがん化しなくなるという思わぬ発見があったのだ。それから25年以上経った現在、この研究により、人間の老化を遅らせたり、ある程度若返らせたりできる可能性を持つ新薬が開発されている。
キャンピシ教授は、がんやその他の加齢が関連する疾患において、細胞の老化が果たす役割に関する研究をしている。老化した細胞は、まだ活発ではあるが、それ以上分裂しない。いわば、朦朧状態になる。キャンピシ教授らの研究によれば、この老化細胞が、細胞分裂と増殖の暴走を特徴とする初期のがんの進行を遅らせている。しかし、キャンピシ教授らのもう一つの発見は、年を取るにつれて老化細胞が蓄積していき、老化に伴う組織の劣化を促進する一連の生体分子を隠していることである。
過去5年間でキャンビシ教授の研究に基づいて、セノリティクス(senolytics)として知られる新薬が開発された(日本版注:老化細胞除去薬もしくは老化細胞死誘導剤とも呼ばれる)。セノリティクスは老化細胞を除去し、動物実験では若々しさを回復させている。カリフォルニア州ノヴァトにあるバック老化研究所(Buck Institute for Research on Aging)の教授を務めるキャンピシは、2011年にユニティ・バイオテクノロジー(Unity Biotechnology)という会社を共同設立し、今年7月に初めて、人に対するセノリティクスの治験を開始した。
キャンピシ教授は最近、自らの研究について、20年以上にわたって老化予防の研究を追い続けているジャーナリストのスティーブン・S・ホールに語った。
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——なぜ突然、また老化予防の薬の話題で盛り上がっているのでしょうか?
いまの生物医学の研究者は、私が大学院生だった頃や博士課程修了後の研究者だった頃にはまったく存在していなかったようなツールが利用できます。つまり、20年前あるいは25年前には不可能であり、単なる夢と見なされていた実験が現在では可能になっているのです。もう1つの変化は、老化についての研究分野と、老化細胞が私たちの加齢を促進するという認識が、ようやく受け入れられてきたということです。開発された薬が人々に効果があるかどうかはまだ分かりません。人間を対象とする初の治験を現在進めているところです。
——細胞の老化は、どのくらい老化に影響を与えるのですか?
老化に関する正しい捉え方は、進化的にバランスを保つ作用だということです。細胞の老化には、がんを予防するという良い目的があるのです。細胞が分裂しなければ、腫瘍は形成されません。 …
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