膵臓がんの治療法を
DNA検査で判定できるか?
非営利団体が、膵臓がん患者数千人を対象にしたDNAシーケンシングで、患者に最適な治療方法を導く治験を実施しようとしている。 by Emily Mullin2016.10.10
「がん患者は、腫瘍の遺伝的特性に基づき、それぞれ異なる治療法の選択肢を与えられるべきではないか」
膵臓がん患者の治療の選択肢を広げようと尽力している患者支援団体が、この考えの正否を確かめる治験を計画している。
研究結果は、適確医療に価値があるかを判断するために切望されていた証拠の提供に一役買うだろう。特に、腫瘍のDNAシーケンシングが、患者にもっとも効果的な治療を施す手段として、どれだけ有効かを知るのに役立つはずだ。アメリカでは、年間4万1780人が膵臓がんで亡くなっており、発症から5年経過後の生存率はわずか8%だ。現在用いられている治療の選択肢には、手術、放射線治療、化学療法があるが、腫瘍に対して、それぞれ異なる遺伝的変異をもつ患者が、それぞれの治療に対してどう反応するかは、わかっていない。
治験を実施するアメリカの非営利団体「膵臓がん行動ネットワーク」のリン・マトリジアン主任研究員は、治験を次のように説明する。まず、治験に参加する患者は、生体組織検査によって、自身の腫瘍組織のサンプルを採取される。その後、研究者が、採取された各腫瘍サンプルをDNAシーケンシング(がんの原因の可能性がある遺伝的変異を見つけられる)で分析する。こうして得られた遺伝的変異の情報に基づき、患者をそれぞれの治療群に分類する。
たとえば、BRCA(DNA修復に関わる遺伝子で、乳がん・卵巣がんにも関連する)に変異のある患者は、変異による生じる問題を補うための治療を受ける。腫瘍の周りでヒアルロナン(ヒアルロン酸)という分子のレベルが高くなっている患者を対象とする別の治療もある。腫瘍のタイプがこの2つのカテゴリーに当てはまらない患者には、第3の方法として、がん細胞を殺す免疫療法を用いる。
治験が始まる2017年春の時点では、まず、これら3種類の治療を実施する。だが、計画では、参加する患者数が増えれば、さらに別の治療法も追加される。こうして、もしある患者に1つの治療法が効かなければ、その人はすぐに別の治療法へと移行できる。治験には、最終的に、アメリカの12カ所で数千人の患者が参加する予定だ。
米国国立がん研究所によるMATCH治験(さらに大規模な適確医学研究プロジェクト)では、さまざまながんのタイプについて、いくつか同じような疑問に答えようとしている。2015年8月に開始されたMATCH治験では、調査に参加している患者にゲノム検査を実施することで、各自の遺伝的特性に合った治療法へと導こうとしている。
ECOG-ACRINがん研究グループ(MATCH治験の研究計画を、国立がん研究所と共同で立案した)のロバート・コミス共同委員長によれば、MATCH治験に関わる研究者は、異なるがんのタイプに共通して存在する遺伝的変異を探しており、それらの変異が、体内の腫瘍の場所に関わらず、同じ方法で治療可能なのかを突き止めようとしているという。
コミス共同委員長は、薬剤開発企業が、より低コストで速いシーケンシングテクノロジーを利用し、新たな薬の標的を見つけるのに役立てる中で、こうした治験が将来的に増えるだろうと考えている。しかし、コミス共同委員長は治験にかなりのコストがかかることも認めている。
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- エミリー マリン [Emily Mullin]米国版
- ピッツバーグを拠点にバイオテクノロジー関連を取材するフリーランス・ジャーナリスト。2018年までMITテクノロジーレビューの医学生物学担当編集者を務めた。