職場にも家庭にも、コンピューターを組み込んだ機器はあらゆる場所にある。あるいは、あなたの手首にもあるかもしれない。調査会社ガートナーの推定によれば、今年、世界中で出荷されるインターネット接続機器は110億台を超える(スマートフォンやコンピューターを除く)。ほんの2〜3数年前のおよそ2倍だ。
もうじき、さらに何十億台もの機器がインターネットに接続されるだろう。これらの機器はネットに繋がっているからこそ便利なものだが、サイバー・セキュリティの面からは悪夢だ。ハッカーたちはすでにインターネットに接続された自動車から医療機器まであらゆるものに不正侵入している。企業が製品化を急ぐ間に、ハッカーがセキュリティを簡単に破っているのが現状なのだ。
ブルース・シュナイアーは『Click Here to Kill Everybody(みんなを殺するためにここをクリック)』(2018年9月刊、未邦訳)という新しい書籍の中で、今や政府が介入して、コンピューターに接続された機器を開発している企業に対し、法的に(最後にセキュリティ対策を追加するのではなく)セキュリティを最優先させるべきだと主張している。著名なセキュリティ関連のニュースレターとブログの著者であるシュナイアーは、ハーバード大学のバークマン・センター(Berkman Klein Center for Internet and Society)のフェローであり、ハーバード・ケネディ・スクール(Harvard Kennedy School)の講師(公共政策)でもある。そのほかにも、電子フロンティア財団(EFF:Electronic Frontier Foundation)の理事、企業の潜在的なサイバー脅威への対処を支援するIBMレジリエント(IBM Resilient)の最高技術責任者(CTO)も務める。
シュナイアーはMITテクノロジーレビューのインタビューで、現在、世界がますますインターネットに接続された社会に向かって突き進んでいる危険性と、その危険に対処する政策が喫緊に求められていると語った。
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——最新の著書では、意図的に人騒がせな書名を選ばれたように思います。
まるでクリック誘導(オンライン広告などで内容とは関連性の薄い意図的なタイトルでクリックを誘う手法)のような書名だと思うかもしれませんね。私は、インターネットが完全に物理的な意味で世界に影響を与えており、すべてが変わっていることを示したかったのです。すでに単なるデータ改ざんによる危険性を超え、生命や財産に対する危機になっています。状況はわずか5年前と比べて変化しており、インターネットに物理的な危険性がある点を指摘するためにこうした書名を付けました。
——その変化によって、サイバーセキュリティに対する概念はどのように変わるのでしょうか?
自動車や医療機器、家庭用電気製品は、現在、コンピューターに何らかの機器を取り付けたものです。冷蔵庫であれば食品の温度を低く保つコンピューターですし、電子レンジであれば食品を熱くするコンピューターです。自動車はコンピューターに車輪4本とエンジンが取り付けられたものです。コンピューターはいまや画面のスイッチを入れて、眺めるだけのものではなくなりました。それこそが非常に大きな変化なのです。これまでコンピューター・セキュリティは独立した一定範囲だけの話でしたが、今はあらゆるモノに対するセキュリティのことです。
——そうした変化を表すために「インターネット・プラス(Internet+)」という新しい用語を提案されました。しかし、すでに「IoT(モノのインターネット)」という用語があるのではないでしょうか?
すでにバズワードがたくさんある中で、自分が新しい言葉を作るのは嫌でした。しかし、IoTでは範囲が狭すぎます。IoTではインターネットに接続された電気製品やサーモスタットなどの装置しか入りません。それはいまここで話していることの一部分でしかありません。つまり、IoTに、コンピューター、サービス、現在構築されている巨大なデータベース、インターネット企業、「私たち」のすべてがプラスされなければな …