ハリウッドへの道を開いた
「ゴースト女優」
レイア姫15秒間の奇跡
リメイク映画が流行しているハリウッドでは、若手俳優たちに新たなチャンスを与えているようだ。最新のテクノロジーによって、往年のスターをデジタルで再現できるようになったからだ。 by Erin Winick2018.10.22
映画『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016年)でもっとも話題の役を演じたイングヴィルド・デイラがスクリーンの中に登場したのは、ほんの15秒ほどの時間だった。しかも彼女の顔はどこにも映っていない。にも関わらず、デイラのインターネット・ムービー・データベース(IMDb)のページには、レイア姫を演じた経歴が掲載されている。
デイラが実際に演じたのは、レイア姫を演じるキャリー・フィッシャーだった。デイラは、いわば操り人形として、映画の最後に登場する、デジタルで再現された19歳のフィッシャーの体となったのだ。
ハリウッドではいま、リメイク作品が流行している。デイラは、かつてのスーパースターを特殊効果によって再現する技術が発達したことで役を得ている、数少ない俳優の1人だ。デイラのような本人になりかわって演技をするゴースト俳優には、ジョニー・ウォーカーの広告で蘇ったブルース・リーの体を演じたダニー・チャン、『ローグ・ワン』で故ピーター・カッシングの顔を被ってグランド・モフ・ターキンを演じたガイ・ヘンリーらがいる。
ローグ・ワン以前にデイラが演じたもっとも大きな役は、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』の端役だった。決してマイナーな作品ではないが、恐らくデイラが演じたワールド・ハブ・テックのことを覚えている人はいないだろう。レイア姫の役を果たすために、デイラはスター・ウォーズのオリジナル・シリーズから、2つのシーンを演じた。レイア姫に抜擢されたのは、演技力に加え、身長、体形、横顔がフィッシャーと似ていたからだ。彼女がやるべきことは、ただ他の誰かになりきることだった。「レイア姫の役を自分のものにすることではありませんでした。細部まで正確にフィッシャーのまねをすることだったのです」。
デイラは数カ月かけてフィッシャーの表情を研究し、ほんの数秒間のシーンのための準備に取り組んだ。インタビュー動画や映画でのクローズアップのシーンをじっくり見るだけでなく、フィッシャーの自伝を読んだりしたという。
実際の収録自体は、インダストリアル・ライト&マジック(ILM=米国の特殊効果・VFX制作会社)にスキャンを作成してもらうためにスタジオで過ごした約3日間、セットでの撮影は1日だけだったという。スキャンを作成するために、視覚効果チームはデイラに真似してもらうフィッシャーの映像を見せた。デイラの顔の詳細な画像を捉えるため、さまざまな照明条件で何百もの光がデイラに当てられた。このスキャンは、最後のシーンにおいて19歳のフィッシャーの顔が重ね合わせられる土台となった。「とても不思議な感じでした。それが自分だとは分かるものの、自分とはまったく違うのです」とデイラは振り返る。「その気持ちは説明しづらいです。たとえば、顔にフィルターを重ね合わせたり顔が交換できる、スナップチャット(Snapchat)のようなアプリを使えば、それがどんな感じか少しだけ分かるかもしれません」。
フィッシャーは映画公開前に最終的にできあがった作品を見て、その結果に満足の意を表したという。しかし、残念ながら、映画が公開されたわずか数週間後にフィッシャーは他界した。
ゴースト俳優による演技には、道徳的な問題が伴うと考える人もいる。もし撮影前にフィッシャーが亡くなっていた場合、役を演じられたかどうか確信が持てないとデイラは話す。最近亡くなった俳優を画面に蘇らせることの倫理的正当性が、俳優が何年も前に亡くなっている場合よりも曖昧であるようにデイラは感じている。「もし、フィッシャーが撮影前に亡くなっていた場合、フィッシャーの家族が納得していることを知った上で初めて役を引き受けたと思います」。
画面に登場した時間という観点から見れば、自身のキャリアにおいて最も小さな役であったに関わらず、映画公開から2年近く経過したいまも、デイラはこの役によって名前が知れ渡っている。15秒間の演技によって女優としての道が開かれ、より大きな役を得るようになったのだ。『ブラジルからの逃亡(Escape from Brazil)』という新しい映画では、堂々と自らの顔で出演する。SFコンベンションやコミック・コンベンションに参加する機会も得ており、欧州や南米でのカンファレンスにも招待されるようになった。
もしストーリー上の必要があり、フィッシャー家の賛成を得られるのなら、レイア姫役を喜んでもう一度演じるだろうとデイラは話す。「ずっと昔の、王や女王の時代に少し似ていますね。誰かが演じる必要がある役でした」とデイラはいう。「役を演じる権利を所有することはできません。何でも好きなように変えられるのですから。私はただの入れ物としての役割を演じただけです」。
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クレジット | INGVILD DEILA |
- エリン・ウィニック [Erin Winick]米国版 准編集者
- MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。機械工学のバックグラウンドがあり、宇宙探査を実現するテクノロジー、特に宇宙基盤の製造技術に関心があります。宇宙への新しい入り口となる米国版ニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」も発行しています。以前はMITテクノロジーレビューで「仕事の未来(The Future of Work)」を担当する准編集者でした。それ以前はフリーランスのサイエンス・ライターとして働き、3Dプリント企業であるSci Chicを起業しました。英エコノミスト誌でのインターン経験もあります。