食肉加工場に連れて行かれる牛の気持ちを知りたい? いや、知りたくはないか。ただ、実質現実(VR)ヘッドセットを装着すれば、ウシの気持ちに共感できるかもしれない。
ジョージア大学とスタンフォード大学、コネティカット大学の研究チームによれば、実質現実の体験は、私たちに自然界への共感を引き起こせることを示している。一連の実験で、参加者は棒で突かれてトラックに押し込まれる牛になったり、酸性化する海の影響で(バーチャルに)手足がもげてしまうサンゴになったりした。
『コンピューター・メディア・コミュニケーション・ジャーナル』に掲載された実験結果によれば、単純に同じ状況を描写した映像を見せられた人より、バーチャルに体験した実験参加者のほうが「環境リスクと自然との関わりについて、より切迫した危機感」を抱くことがわかった。また、その効果は少なくとも1週間は持続する。
実験結果はもっと追求する価値がある。環境問題を真剣に検討しようとすると、自分自身の行動の影響は、通常、どこか別の場所や、ずっと後になってから感じるので、自分たちの行動と自然界に与える影響にある因果関係を、通常の感覚では理解できないことが課題になる。実質現実により、影響のただ中に自分が置かれることで、自分たちの行動が自然界にどう影響するかについて、認識を変えられるかもしれないのだ。
実質現実で共感を引き起こそうとするのはこの研究が初めてではない。スタンフォード大学バーチャル・ヒューマン・インタラクション研究所の研究によれば、バーチャル世界で赤杉セコイアを切り倒す木こりの役を演じた人は、木を切り倒しているところを想像しただけの人に比べて、紙ナプキンの消費量が少ないとわかったのだ。
ほかには、体験したユーザーの白サイに対する共感を高め、保護活動への支援を促進させる効果を狙った白サイと顔を付き合わせる体験ができる実質現実(VR)の実験もある。
もちろん、こうした設定での一瞬の経験が、人を一夜にしてデビッド・アッテンボロー(イギリスのムツゴロウさん的人物)に変身させるわけではない。しかしガーディアン紙によると、牛とサンゴの実験に関わった研究者は、こうした試みは人間が自然界に与える影響を効果的に説明する教育用には使えるだろう、と考えている。そんな教育を受けたら牛肉は食べられなくなる。
(関連記事:Journal of Computer-Mediated Communication, The Guardian, “Using Virtual Reality to Save the White Rhino,” “Disability-Simulating VR Promotes Empathy”)