MIT発の鉄鋼ベンチャー
伝統産業のクリーン化へ道筋
大量の二酸化炭素を排出している従来の製鋼プロセスに代わるテクノロジーをMITのスピンアウト企業が開発した。商業化にはまだ課題も多いが、気候変動対策における困難な問題の解決へ向けた希望となりそうだ。 by James Temple2018.10.10
ボストン市から北へ30分ほど進んだところにあるマサチューセッツ工科大学(MIT)のスピンアウト企業、ボストン・メタル(Boston Metal)の実験室。ぼこぼこした円盤状の暗灰色の鋼鉄が実験台の上を覆っている。
ボストン・メタルが新しい金属加工法を使って作った最初の高力合金の塊だ。何世紀にもわたって製鋼に用いられてきた溶鉱炉の代わりに、ボストン・メタルは電池に近いものを作った。具体的には、炭素ではなく電気を使って鉄鉱石を加工する電解槽を開発したのだ。
このテクノロジーをボストン・メタルの創業者らが期待するような安価かつ大規模に使用できれば、世界経済においてクリーン化が特に困難な分野の1つであり、産業界において気候汚染物質をもっとも多く排出している鉄鋼業から、温室効果ガス排出量を削減できる道が開く可能性がある。
9人の社員からなるボストン・メタルは、過去6年間に渡ってこのアイデアに取り組んできた。そしていま、次の段階に移行しつつある。同社は現在の資金調達ラウンドが終了次第、大規模な実証施設を建設し、鉄鋼生産に向けた工業規模の電解槽を開発する予定だ。
炭素の除去
現在の主な製鋼方法では、酸化鉄とともに、石炭を原料とする硬い多孔質の物質であるコークスを溶鉱炉に入れる。高温下でコークスは一酸化炭素に変化し、酸化鉄から酸素を取り除き、「銑鉄」として知られる中間産物金属と大気に排出される二酸化炭素が生成される。
サイエンス誌で発表された最近の論文によると、製鋼プロセスにおけるこれらの工程を合わせると、世界の二酸化炭素排出量の約5%を占める年間約1.7ギガトンもの二酸化炭素を大気に排出しているという(「「発電所以外」の温室効果ガス、依然として打つ手なし」を参照)。しかもそれは、溶鉱炉の火を燃やし続けるのに必要な燃料による排出を考慮に入れない場合の話だ。
「自動車、建物、橋はすべて、鋼鉄にかなり依存しています」。論文の筆頭著者であり、カリフォルニア大学アーバイン校の研究者であるスティーブン・デイビス准教授(地球システム科学)は話す。「鋼鉄に依存する状況に変化の兆候は見られません。その状況が変わらないのであれば、製鋼プロセスから炭素を除去する(使わない)方法を見つけ出す必要があります」。
二酸化炭素の排出を完全になくすには、二酸化炭素を製鋼所から出る前に捕捉するという費用がかかり技術的に困難な問題を伴うテクノロジーか、酸化鉄から酸素を取り除くのに使用できる代替物質のいずれかが必要となる。
壮大な挑戦
MITの化学者であるドナルド・サドウェイ教授は2000年代半ばに、意図せずしてこの問題の解決策につながる研究に取り組み始めた。
米国航空宇宙局(NASA)は、月面基地を築くための前提条件となる月の表面から酸素を抽出する方法を考え出すことができた最初の研究チームに25万ドルの賞金を出すと発表していた。サドウェ …
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