「ネットの意見が法を作る」 デジタル民主主義で世界をリードする台湾の挑戦
ビジネス・インパクト

The simple but ingenious system Taiwan uses to crowdsource its laws 「ネットの意見が法を作る」
デジタル民主主義で
世界をリードする台湾の挑戦

若者の政治への関心が高い台湾では、「v台湾(vTaiwan)」というプラットフォームを通じて、市民が立法プロセスに参加している。先進的なデジタル民主主義の取り組みは、台湾をどう変えたのか。 by Chris Horton2019.03.22

あれは2015年後半のことだった。色々なことが行き詰まっていた。その4年ほど前に台湾の財務省は酒類のオンライン販売の合法化を決定していた。新しい法律の方向性を決めるため、財務省は酒店、電子商取引プラットホーム、さらにオンライン販売によって子どもがお酒を簡単に買えると心配する市民団体などとの話し合いを始めた。しかし、話し合いは噛み合わないままだった。法制化はまったく進まなかった。

このため政府高官と活動家が集まって、この問題を「v台湾(vTaiwan)」と呼ばれるオンライン討論プラットホームに移すことにした。2016年3月初旬に約450人の市民が「vtaiwan.tw」に参加し、解決策を提案し、どれを採用するのか投票した。

数週間も経たないうちに、いくつかの提案事項が練り上げられた。オンラインでの酒類販売は少数の電子商取引プラットホームと流通業者に制限。決済はクレジット・カードのみ。商品の受け渡しはコンビニエンス・ストアとすることで、子どもの不正なお酒の購入はほぼ不可能になる。4月下旬、政府はこの提案事項を草案にまとめ、議会に提出した。

行き詰まりは「ほとんどすぐに解決しました」と話すのは、v台湾が討論の開催に使用しているデジタル・プラットホームの1つである「ポリス(Pol.is)」の共同設立者、コリン・メギル最高経営責任者(CEO)だ。「対立している双方とも、それまで実際にお互いの考えを話し合う機会がありませんでした。実際に話し合ってみると、基本的には、反対サイドの相手が望むことを喜んで与えることがわかったのです」。

v台湾が設立されて3年経っても、台湾政界が嵐に巻き込まれることはなかった。v台湾は二十数件の法案を討論するのに使われただけで、政府はその討論の結果に注意を払う必要はなかった(もしこの記事が執筆された2018年9月以降に新しい法律が国会を通過すれば別だが)。しかしv台湾というシステムは酒類販売法のように対処方法が行き詰った問題について合意点を探すのに有益なことが証明されており、v台湾の手法はいくつかの地方自治体における大規模な諮問プラットホーム「ジョイン(Join)」に応用されている。現在の問題点は、v台湾が国家レベルの大きな政治課題の解決に使えるかどうか、また他国のモデルになり得るかどうかである。

台湾は、デジタル民主主義のパイオニア的事業の地として真っ先に思い浮かぶ場所ではないかもしれない。台湾で初めて直接選挙により総統が選ばれたのは1996年のことだ。それまでの一世紀の最初は日本による統治を受け、次に中国国民党による戒厳令が敷かれた。このような耐えがたい過去において、暴虐な政府への台湾人の反対運動はデモ行進しかなかった歴史がある。台湾が民主的な時代に入った2014年の抗議運動は、今回の革新的な政治実験の種を撒いたことになる。

2014年の抗議運動とは、学生や活動家が主導した「ひまわり学生運動」だ。この運動は、1949年以来自らを治めてきた台湾と、台湾は中国の領土だと主張する中国との間で無理に貿易協定を結ぼうとした馬英九(マー・インチウ)政権の企てを中止させた。抗議をする人々は、この貿易協定は台湾経済に対する中国の影響をあまりにも強めるものだと反対し、3週間以上も政府の建物を占拠した。

この事件の直後、馬政権はひまわり学生運動の活動家を呼んで、台湾の若者とうまくコミュニケーションをとるためのプラットホームの設立を求めた。ひまわり学生運動の主導的に役割を担った「ゴブ・ゼロ(g0vと書く)」と呼ばれる台湾市民のテックコミュニティは、2015年にv台湾を構築し、現在も運営している。市民、市民団体、専門家、そして選ばれた代表者らは、v台湾を使うことで、v台湾のWebサイト、対面での会合の場やハッカソンを通じて提案された法案について討論できる。v台湾の目的は、政策立案者たちが協議を経て、正当性を得られる決定を下す支援をすることだ。

台湾の唐鳳(タン・フォン)デジタル大臣は私たちの取材に対して、「v台湾は、市民社会が政府の機能について学び、ある程度、両者が協調するためのものだと思っています」と述べた。彼女は著名なコンピューター・エンジニアでもあり、ひまわり学生運動に関係する数千人の抗議者たちの内部通信ネットワークを構築し、維持管理する手助けもしてきた。2016年の総統選挙で政府の透明性向上を公約にして当選した現在の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統により大臣に指名された。

v台湾では、提案を募ったり、情報を共有したり、世論調査をしたりするのにさまざまなオープンソースのツールを使っているが、ポリスは重要な役割を果たしている。ポリスは2011年の「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)」抗議運動や「アラブの春」反政府デモの後で、シアトルのメギルCEOと彼の友人が構築したプログラムだ。ポリスでは、討論のためのトピックが最初にアップロードされる。アカウントを持っている人は誰でもそのトピックにコメントでき、また他の人のコメントに対して賛成票や反対票を投じられる。

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