中国のビッグデータ監視は
国民に自由をもたらすのか?
中国が導入を進めている社会信用システムは、独裁的国家による監視の強化につながると見られている。だが、ビッグ・データを使った精緻な監視はむしろよりよい市民生活に役立つかもしれない。 by Yasheng Huang2018.08.31
2020年までに導入が予定されている中国の新しい社会信用システムは、国民1人1人の買い物の習慣から友人の選び方まで、あらゆる要素に基づいて信頼性が測られる。国民を管理したい独裁主義の体制にとって理想的なツールのように見えるかもしれない。いつの時代も独裁主義体制は監視テクノロジーの導入に熱を上げてきたが、こと中国に関しては、ビッグ・データが(意図しない形で)国民への抑圧を軽減するかもしれない。
中国で重要視されはじめているプライバシー
歴史家で作家のテッド・ウィドマーは数年前、ボストン・グローブ紙に「どのように米国はプライバシーを重要視するようになったのか」という記事を寄稿し、いかにして米国人が英国人の「自分の内に秘めておく」というプライバシー感覚を受け継ぎ、より一層重要視するようになったかを詳細に論じた。収入、健康、余暇の追求は当然のようにプライベートなものだと考えられており、プライバシーは何よりもまず政府から守られるべきものだとしている。合衆国憲法修正第4条では「不当な捜索および押収」を禁じており、米国民は「身体、家屋、書類および所有物の安全を保証される」権利を有すると規定されている。
包括的に論ずるべきではないが、中国と西洋諸国ではプライバシー、個人の権利、言論の自由に関する重要度が同じではないというのは確かだろう。中国人がそうしたことに価値を置いていないとではない。ただ単に、経済成長や収入の増加をより重要視しているのではないかということだ(西洋諸国でも、人々が自分たちの利益と自らの権利を引き換えてもよいと考える場合がある。今年初めの個人金融Webサイト、クレジディブル(Credible)の調査によると、米国のミレニアル世代の約半数が、学生ローンの免除と引き替えに、今後2回分の大統領選挙の投票権を手放してもいいと回答している)。
中国において個人の権利に関する価値観が異なる理由の1つは、1980年代というごく最近まで「プライバシー」という言葉が否定的に使われていたことにある。中国の規範は2000年にわたる儒教文化に根ざしており、深い対人関係に重きを置くものだ。対人関係を強固なものにする1つの方法は、透明性と全面的な開示だ。秘密が作られる状況は、得てして不快なものだ。良いことなら、なぜ隠す必要があるのか、というわけだ。この文脈でいくと、プライバシーは後ろ暗い秘密を隠しているのと同じことになる。プライバシーを守ることは反社会的な行為なのだ。
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