「AI大国」中国について知っておきたい5つのこと
オックスフォード大学で中国の人工知能(AI)開発について研究しているジェフ・ディン博士は、昨年1年間に得た重要な点ついての考察を最近発表した。中国のAI産業の現状をよく反映しているので、内容を以下に簡単にまとめて紹介する。
1. 中国語を話すAIコミュニティと英語を話すAIコミュニティには非対称性がある
中国人研究者の大半は英語を読むことができるし、欧米のほぼすべての主要な研究開発の内容はすぐに中国語に翻訳される。だが、逆もまた然りとはいえない。そのため、中国の研究コミュニティは英語圏の研究コミュニティよりも両陣営で起きていることをずっとよく理解している。中国のAI産業が成長を続けるにつれて、欧米人にとっては大きなデメリットとなるかもしれない。
2. 欧米人は中国のAIの能力を過大評価している
過大評価の原因は、一部はメディアにあり、一部は「AI軍拡競争」という物語を自らの課題を進めるために利用している欧米の関係者にある。だが、欧米人が中国企業の技術力や能力を正確に理解できていないことも一因だ。中国のニュースサイト「フーシュー・ドットコム(Huxiu.com:虎嗅)」の詳細なレポートは、中国の巨大AI企業の大半は言われているほど大層なものではないと指摘している。一般的に思われているよりも洗練されたアルゴリズムは持っておらず、研究規模も小さいという。
3. 中国政府はAIを社会統治のための道具として捉えている
中国のコンサルティング企業、ヨウ・インテリジェンス(Yiou Intelligence)の報告書によれば、AI企業上位100社のうち、もっとも多いのはセキュリティ(治安維持や安全保障)関連の企業だ。顔認識を扱うスタートアップ企業、警備や安全監視のプラットホームを提供する企業も含まれている。中には、中国の少数民族であるウイグル族の住む新彊(しんきょう)自治区に対する政府の監視社会体制に直接関与している企業もある。ほかにも、中国の監視技術を中央アジアなどに輸出している企業もある。
4. AI研究は中国・米国間の協力によって大きな利益を得ている
中国企業と米国企業の間ではこれまで「米国製」や「中国製」という言葉の意味が揺らぐほど、才能やアイデアが自由に飛び交ってきた。たとえば、米本社を除けば最大規模の研究機関である北京のマイクロソフト・リサーチ・アジア(MSRA)がある。20年間の歴史の中で、MSRAはマイクロソフトの研究活動の境界を押し広げるとともに、中国におけるAIエコシステムを形成する上で重要な役割を果たしてきた。中国で人気を博しているチャットボット「シャオアイス(XiaoIce)」のようなプロジェクトは、中国の膨大なユーザー基盤を活用して同社のAI技術に磨きをかけている。またMSRAは、中国の主要AI企業で活躍する数千人もの才能ある中国人研究者を育成してきた。
5. 中国人はAI倫理に関心がある
確かに中国人と米国人のプライバシーに関する考えは異なるかもしれないが、中国人がプライバシーをまったく気にしないというのは間違いだ。大手テック企業はプライバシー侵害論争にはまり込み、地方当局はデータ保護に違反した企業を訴えている。また、中国の哲学者や研究者は倫理に関するさまざまな会話を国レベルの議論に引き上げた。
4月17日10時更新:「2. 欧米人は中国のAIの能力を過大評価している」の出所を明記し、表現を一部修正しました。