CRISPRに重大欠陥か、遺伝子治療でDNA損傷の恐れ
スーパー遺伝子編集ツール、クリスパー(CRISPR)に衝撃が走った。マウスやヒトの細胞のDNAに、危険な兆候となりかねない大きな変化を引き起こすことが見い出されたのだ。
英ウェルカム・サンガー研究所(Wellcome Sanger Institute)の研究者らの論文によると、クリスパーによる遺伝子編集はDNAの大きな塊を消去・反転させたり、丸ごと移動したりといった甚大な遺伝的誤植を引き起こす可能性があるという。
同研究チームは、クリスパーが何十億もの細胞を編集する遺伝子療法に使用される場合、 悪い結果が生じる可能性が「高い」と述べている。「多数の様々な突然変異が発生することで、各手順で編集済み細胞の1つまたは複数に、重大な病原性の損傷が与えられる可能性が高くなります」。ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotechnology)に掲載された同論文の研究を主導した遺伝学者のアラン・ ブラッドリー教授はこう話す。
クリスパーによる想定外のDNAの変更によって、細胞ががん化する危険性があるということだ。このことは、クリスパーを血友病などの遺伝性疾患の治療に使おうとする計画に暗い影を落とし、「デザイナー・ベビー」の誕生の見込みをかつてより小さくする可能性がある。
クリスパー療法に取り組むスタートアップ企業は、今回の研究結果を、的外れであるとしてはねつけた。希少な眼の疾患を治療するクリスパー療法を開発中のスタートアップ企業、エディタス・メディシン(Editas Medicine)の広報担当者はスタット(Stat) に対し、同研究で判明した問題は「クリスパー・ベースの医薬品を製造する当社の取り組みにおいて、特に問題になりません」と話した。インテリア・セラピューティクス(Intellia Therapeutics)のトム・ バーンズ上級副社長は、遺伝子工学ニュース(Genetic Engineering News)に今回の論文について、「少し人騒がせですね。当社は論文が指摘したような問題点については、ずっと検討しています」と語った。