南極の海氷が激減、35年分の増加量が数年で消えた?
南極海の氷の消失ペースが、北極圏での長期の減少を突如上回った。
北極圏の氷の消失は1990年代後半から加速しており、気候モデルが予測したペースを上回り、メディアの注目を浴びている(「核兵器研究がもたらした気候モデルのブレークスルー」を参照)。だが、南極では話はまったく異なっていた。南極では海氷量がここ数十年で徐々に増しており、世界の気候系の複雑な相互作用の正確な性質を解明しようとする科学者たちを当惑させていた。
しかしながら、米国科学アカデミー紀要に掲載された新たな研究論文によれば、そのような状況が突然終わりを告げたようだ。南極海の海氷量は2014年に最大を記録したが、それ以降、約200万平方キロメートルも減少してしまった。これは劇的な反転であり、米航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センターの気候学者であるクレア・パーキンソンによれば、約35年間の増加分が数年で一掃されたことになる。
なぜ南極海の氷が減少し始めるまでにこれほど長くかかったのか、減少傾向がなぜ急激に加速したのか、現段階では科学界に明確な答えはない。2015年後半と2016年前半の極めて強いエル・ニーニョによる海水温上昇や、弱い極渦が卓越風のパターンを変えていることなどが要因として考えられる。
2014年以降の氷の急減が「長期のマイナス傾向」の始まりを示しているのか、あるいは、2018年のわずかな増加が一時的なものなのか「回復の始まり」なのかも定かではない、と論文は述べている。
しかし近年の急激な落ち込みから、少なくとも追加のデータは得られる。研究者はそれらのデータを利用して、自身のモデルを検証・改善したり、気候変動と海氷の変化との関連をさらに掘り起こしたりできるだろう。
すでに海水に浮かんでいる海氷が溶けても、陸地にある氷床が溶けた際のような海水面上昇に直接つながることはない。しかし危険なフィードバック効果が発生する可能性がある。濃紺の海水が、明るい色の海氷と数百万平方キロメートル規模で置き換わると、反射される熱よりも吸収される熱が増えていく。その結果、海氷や氷河が、さらに速いペースで溶ける恐れが出てくる。