MIT発の原発ベンチャーが廃業、発電効率「75倍」を「2倍」に訂正
溶融塩原子炉設計に関する大胆な主張を取り下げてから約2年、マサチューセッツ工科大学(MIT)からスピンアウトし広く注目を浴び、数百万ドルもの資金を調達したトランスアトミック・パワー(Transatomic Power)がいま、事業に幕を下ろそうとしている。
2011年に設立されたトランスアトミックは9月25日、廃業を発表する予定だ。
トランスアトミックが設計した溶融塩原子炉は、従来型の軽水炉と比べて75倍以上の効率で発電でき、また軽水炉の使用済み核燃料を再利用して稼働できると主張していた。だが、2016年後半に発表したホワイト・ペーパーで、使用済み核燃料を再利用できるという主張を完全に撤回し、さらには「75倍」という数値を「2倍以上」に訂正している。この件については、MITテクノロジーレビューが最初に報じている。
このような下方修正により、トランスアトミックはシステムの再設計を余儀なくされた。その結果、実証炉の開発計画に遅れが生じ、テラパワー(TerraPower)やテレストリアル・エナジー(Terrestrial Energy)といった競合の新興企業に先を越される結果となったと、共同創業者のレスリー・デワン最高経営責任者(CEO)は述べた。
予定が延び、性能の優位性も低下したトランスアトミックは、必要な追加資金約1500万ドルの調達が困難になった。「私たちは妥当な期間で原子炉を建設できるほど、迅速かつ十分に会社を拡大することができませんでした」とデワンCEOは述べている。
トランスアトミックは、ファウンダーズ・ファンド(Founders Fund)やアカディア・ウッズ・パートナーズ(Acadia Woods Partners)などから400万ドル以上の資金を調達している。
デワンCEOは(下方修正こそあったものの)従来の原子炉よりはるかに廃棄物が少なく、高い安全性などに強みがあったと強調する。他の研究者が「トランスアトミックが始めた取り組みを継続し、願わくばそれらを基礎にできる」ように、すべての知的財産をオープン・ソース化するつもりだという。
中道系シンク・タンクであるサード・ウェイ(Third Way)のクリーン・エネルギー計画担当ジョシュ・フリード副社長は、トランスアトミックの廃業は高度な原子力分野の開発に取り組む幅広い挑戦に悪影響を及ぼすものではないと話す。米国ではこのようなプロジェクトがここ数年、数多く出現していることや、米原子力規制委員会が承認手続きの合理化のための措置を講じていること、ニュースケール(NuScale)やテレストリアルなどの企業は政府の審査を通して事業を進めていることなどを指摘した。
あるいはまた、有望なプレイヤーへの支援と勢いが集中する中、あらゆる新興セクターに起こる避けられない統合期の始まりを告げるものかもしれないと、フリード副社長は述べた。