遺伝子ドライブで外来種駆除は生態系破壊の恐れ、研究者が指摘
侵入生物と疫病媒介昆虫に対するテクノロジーの回答は、現在の形では、今までになく危険なものになっている。
驚くべき治療の数々は別として、クリスパー(CRISPR)の最も魅力的な利用法のひとつは、いわゆる遺伝子ドライブである。MITテクノロジーレビューの過去の記事でも触れてきたように、この手法を使えば、疫病媒介昆虫や侵入生物(たとえば、もし駆除を望むなら、米国におけるホシムクドリ)のDNAに、受胎抑制遺伝子を簡単に導入できる。そうすれば、これらの種を体系的に一掃できるというわけだ。このテクノロジーを蚊に適用すれば、マラリアやジカ熱を撲滅できるかもしれない。ニュージーランドでは、外来種をターゲットにすることで、急速に減少しつつある固有種を保護する方法として提案されている。
しかし遺伝子ドライブには危険が伴う。私たちが過去の記事で述べたように、ある地域から特定の種を駆逐できるかもしれないが、一方でこの手法が制御不能になり、予定よりも広い範囲で、意図していなかった方法で生態系全体を変えてしまう事態も、想像に難くない。事実、遺伝子ドライブの先駆者のひとりであるマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者であるケビン・エスベルト助教授は、遺伝子ドライブが科学から応用技術になりはじめた数年前から、安全性に対する懸念を表明している。
エスベルト助教授と数人の研究者はバイオアーカイブ(bioRxiv)に論文を発表し、遺伝子ドライブを現在の基本的な形のまま使用するのは安全性を欠くと指摘した。共著者であるオタゴ大学のニール・ジェメル教授とともにPLOS ONEへの投稿で述べているところによれば、エスベルト助教授のチームのモデルでは、より強固な安全対策を設けない限り、編集された遺伝子は、侵入生物がいない地域にまで広がってしまうという。標準的な自己増殖可能なCRISPRに基づく遺伝子ドライブは最終的には、新しい非常に侵入的な種を作り出すのと同じことだ、と二人は論じている。「生存可能なあらゆる生態系に広がってゆき、環境を変化させてしまう可能性があります」。
まだ希望は残されている。エスベルト助教授とジェメル教授は、制御不能にならないように遺伝子ドライブを微調整することは完璧に可能だと指摘する。だが、研究者たちは微調整の方法について様々な仮説を提出してきたものの、実際に使えるほどに成熟したアイデアはまだないのが現状だ。成熟したアイデアが登場するまでは、遺伝子操作された動物や昆虫を大量に野に放つのを延期するのが賢いかもしれない。「性急にことを運ぶのに伴う代償としては、あまりにも大きすぎます」とエスベルト助教授とジェメル教授は結論づける。