グーグルが常温核融合の追試に1000万ドル提供も、再現できず
グーグルが資金提供した研究チームはこの4年間、科学において極めて議論を呼んだ実験の1つの再現に取り組んできた。テーブルトップ実験(実験室で実施する小規模な実験)で太陽の力を再現するというものだ。
常温核融合とは何か。核融合は恒星の中心で起きる反応で、水素原子が収縮して融合し、ヘリウムを作り出す。その過程で大量のエネルギーが放出されるというものだ。フランスの国際熱核融合実験炉(ITER)をはじめとする大規模プロジェクトは、地球上での大規模な核融合の再現を目指している。核融合には膨大な熱と圧力が必要なため、その実現は困難だ。たとえば、ITERは巨大な磁石によって閉じ込められた、太陽核の10倍となるおよそ摂氏1億5000万度の水素ガスの粒子を使う。これに対して常温核融合とは、通常の核融合と同じ反応を、室温で得るというアイデアだ。
果たして、このアイデアに正当性があるのかというと、その答えはノーだ。1989年、ユタ大学の科学者であるスタンリー・ポンズとマーティン・フライシュマンは、重水素を含む水(いわゆる重水)の試験管にパラジウム製の2枚のプレートを入れ、電流を流すことで、熱を発生させたと発表した。この発表は衝撃的だった。それが本当なら、大量のクリーンエネルギー供給源が発見されたことになる。
しかし、その実験結果を再現できた者はおらず、そのやっかいな失敗はほとんど忘れ去られてしまった。
それから30年が経ったが、グーグルはここ数年間、このアイデアに1000万ドルを投資してきた。5月27日にネイチャー誌に掲載された記事で、グーグルの科学者らは「常温核融合の可能性を否定するには、時期尚早なのではないかと判断していた」と動機を語っている。4年間に渡り、グーグルの科学者チームは研究室で常温核融合を実現するための3つの異なる方法を探ってきた。残念ながら、どの実験においても実現の兆しは見られなかった。
どうやら今度も常温核融合の夢はダメだったようだ。だが、このグーグルの科学者チームの研究によって、水素貯蔵をはじめとする、より現実的な技術に応用できる材料工学や科学などの分野では進歩が得られた。