グーグルが遺伝子治療ベンチャーに出資、CRISPRで心臓病を予防
なぜ、ポテトチップスを食べ続けて運動もしていないのに動脈が詰まらない幸運な人がいるのか? 疑問に思ったことはないだろうか。それは彼らが「幸運な遺伝子」を持っているおかげなのかもしれない。
アルファベットの投資部門であるGVは、バーブ・セラピューティクス(Verve Therapeutics)へ出資する。バーブ・セラピューティクスは、遺伝子編集ツールのクリスパー(CRISPR)を「一度だけ」注入することで、幸運なDNAを広めることを計画しているスタートアップ企業だ。
関係する心臓医によると、DNAを微調整する注射が、心臓病に対する「生涯にわたる保護」を提供できる可能性があるという。
バーブ・セラピューティクスはGVをはじめとする複数の資金提供元から5850万ドルを調達している。バーブと他社の違いはどこにあるのだろうか? 遺伝子療法を研究しているほとんどの企業は、血友病をはじめとする希少疾患を対象としている。だがバーブは、DNAを編集することで、極めて一般的な死因の1つである心臓病を予防できる可能性があると考えている。
特に努力をしなくても悪玉コレステロール値が低い人たちがいることは科学者らに知られている。また、心臓病から人々を守るとされている遺伝子の突然変異(PCSK9、HMGCR、NPC1L1など)があることも分かっている。バーブはクリスパーを用いて、これらの有益な遺伝子変異を他の人々にも導入することを計画している。
バーブは編集対象とする遺伝子を明らかにしていない。だが、おそらく肝臓を編集する可能性が高い。肝臓は脂肪が動脈に行き着く前に処理をする臓器だ。バーブは計画立ち上げの一環としてグーグルの姉妹企業ベリリ(Verily )と協力し、ナノ粒子の注入によるクリスパーの送達に取り組むという。
バーブの科学部門を率いるのは心臓医・遺伝子研究者のセカー・カシレサン博士だ。カシレサン博士はマサチューセッツ州ケンブリッジにあるブロード研究所(マサチューセッツ工科大学とハーバード大学の共同組織)を離れてバーブに加わることになる。カシレサン博士の弟であるセンシルは心臓病で亡くなった。「最終的には、この治療が私の弟のような死者を大幅に減らすことにつながると考えています」とカシレサン博士は述べている。
現時点での心臓病の予防法としては、スタチンの服用、食生活の改善、エクササイズバイクなどを使った運動などがある。だが、長続きしない人がほとんどだ。バーブの科学者たちは、幸運な遺伝子を体内に注入すれば、そうした予防は不要になるかもしれないと考えている。カシレサン博士によると、この遺伝子療法はまず、実際に心臓発作の経験があり、再発を避けたい成人に対して利用できる可能性があるという。
バーブは遺伝子編集を成人に対してのみ実施するとしている。だが現実に目を向けてみよう。こうした遺伝子強化をヒト胚にも施すことは非常に魅力的だ。実際、その試みはすでに実施されている。
中国の科学者は、遺伝子編集をした双子の姉妹を誕生させた。この双子はHIVを予防するよう遺伝子に変更が加えられた。だが、この件に関わった賀建奎(フー・ジェンクイ)元准教授は心臓病にも注目していた。フー元准教授は、PCSK9を除去することで心臓病を予防できると考え、胚を編集していた。
5月9日18時30分更新:原文の訂正内容を反映するとともに、本文中の誤字を修正、一部訳語を変更しました。