米司法長官、フェイスブックのE2E暗号化に「待った」
米国のウィリアム・バー司法長官は、 フェイスブックのメッセンジャー・プラットフォーム全体にエンド・ツー・エンドの暗号化を展開する計画の保留を求める公開書簡を発表した。書簡は同社のマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)宛てで、英国およびオーストラリアの司法トップとの連名。
バー司法長官らは、メッセージの暗号化によってプライバシーがさらに保護され、警察がテロや児童搾取犯罪など、フェイスブックにおける犯罪の発見が難しくなることを懸念している。バー司法長官らは捜査中の事件について、警察が暗号化されたメッセージを解読できることを求めている。なおバー司法長官はすでに2019年7月のスピーチで、この問題を提起している。
ザッカーバーグCEOは声明で、「私たちは、ユーザーは世界中どこにいても、オンラインでプライベートな会話をする権利があると信じています」と述べている。さらに「 私たちは、政府がバックドアを作ろうとしていることに強く反対します。バックドアの存在は、世界中のユーザーのプライバシーとセキュリティを損なわせるからです」と付け加えている。
フェイスブックの主張は正しい。一度バックドアを作って暗号化を弱め始めると、ユーザー全員のセキュリティが低下する。動機が正当か、正当でないかに関わらずだ。バックドアはあくまでも「裏口」であり、一度作られるとバー司法長官らの懸念とは違う意味で、犯罪者によって利用されるリスクがある。実際のところ、米国国家情報局(NSA)が開発したバックドアツールが悪意のある人物に利用された事例を私たちは目の当たりにしている。その結果、「 ワナクライ(WannaCry)」のような、世界中に大規模な経済的損失を与えたランサムウェア攻撃に繋がってしまった。 それだけではない。世界の多くの場所で、抗議者や活動家たちが暗号化されたメッセージを使用し、抑圧的な体制に反対している。政府がアクセスできるバックドアを作ってしまうと、そういった活動ができなくなる。
それにも関わらず、米司法省は「水面下での犯罪」を可能にしてしまうという理由で、10年以上に渡って暗号化に反対してきた。この問題はかなり長い間続いている議論であり、ここで終わるとは考えづらい。
フェイスブックは、すでにワッツアップ(WhatsApp)でエンド・ツー・エンドの暗号化を提供しているが、フェイスブック・メッセンジャーやインスタグラムのメッセンジャーのような他のプラットフォームにも拡張する計画を発表している。 フェイスブックは、「プライバシー重視のコミュニケーション・プラットフォーム」への移行の一環であると述べているが、一方では規制当局がフェイスブックを分割・解体するのを難しくするために別々の事業部をより緊密に統合する取り組みのようにも見える。ヴァージ(The Verge)にリークされた情報からは、ザッカーバーグCEOが分割をどれだけ懸念しているかが分かるはずだ。