欧州で止まらないテック業界の人材流出、つなぎとめに躍起
ヨーロッパで優秀なテック人材を探すのは困難なことが多く、ときには不可能だ。ロンドンの英国貴族院で先日開かれた人工知能(AI)に関する特別委員会の公聴会では、富士通の国際部門のジェセフ・レガー最高技術責任者が、英国でのAIプロジェクトに「適切な人材を見つけるのは困難」と発言。「実際のところ、雇用市場は空洞化しています」と述べた。大陸ヨーロッパや他のテクノロジー分野でも同様の悲鳴が聞かれる。
驚くべき事態だ。ヨーロッパには、コンピューターサイエンス分野で世界トップ10に君臨する大学のうち5つが存在している。さらにロンドンを拠点とするベンチャーキャピタルのアトミコ(Atomico)が先週発表したレポートでは、ヨーロッパ大陸のソフトウェア開発者は2016年、50万人増加したと記されている。人材は十分に揃っているはずではないのか?
アトミコのレポートの別の箇所を見てみると、原因の多くは米国の大手テック企業にあるようだ。ヨーロッパで積極的な拡大策を取ってきた大手テック企業が、テクノロジー分野の雇用市場を一変させたのだ。グーグルやフェイスブックといった企業は優秀な人材に我先にと飛びつき、高額の報酬を提示している。グーグルやフェイスブックが提示する報酬額はヨーロッパの市場平均を約50%上回り、将来のキャリアアップの可能性も大きい。そういえばフェイスブックは12月4日、ロンドンだけで800人を新たに雇用すると発表した。他の企業が抱いているであろう、ブレグジットへの懸念を払い除けた格好だ。
さらにヨーロッパのベンチャーキャピタル環境が、状況悪化に拍車をかけている。ヨーロッパ内陸国のベンチャーキャピタルはかなり小規模であることが多く、動く資金の合計額も小さい。したがって起業家はプロジェクト資金を確保するのが難しくなり、多くのスタートアップが米国やアジアでの会社設立を選択することになる。それに伴い、才能も流出してしまうのだ。
ウォール・ストリート・ジャーナルの記事によれば、こうした事態に対してヨーロッパでは総額で約24億ドル規模の官民共同テクノロジー投資ファンドが5つ立ち上がり、地域のスタートアップシーンの活性化を目指しているという。
ヨーロッパにとってこれは大きな投資だ(ちなみにヨーロッパのテック業界が2017年に投資家から集めた資金は190億ドルになると予測されている)。だが、大手テック企業が提示する高額報酬や外国資金の魅力に対して、勝ち目はあるのだろうか? 現時点ではまだわからない。