「1本の染色体」しか持たない新酵母、中国人研究者がCRISPRで作製
少なくとも過去1000万年の間、 ビールの醸造に使用したり、パンに入っているのが見つかったりした酵母細胞は、すべて16本の染色体を持っている。だがいまや、クリスパー(CRISPR)技術と中国人DNA編集者により、たった1本の染色体しか持たない生きた酵母が誕生した。
私たちヒトは遺伝子を46本の染色体上に配列している。酵母は16本の染色体を使用する。ちなみに、1260本の染色体を持つシダ植物も存在しているが、その理由は定かではない。
染色体は本当にこれほど多い必要があるのだろうか? 答えを探るべく、チョジュン・チン教授らの研究チームが、中国科学院上海生命科学研究院植物生理生態研究所の合成生物学重点研究室で実験した。
チン教授のチームは、遺伝子編集ツールのCRISPRを使い、糸のような各染色体をまとめるボタンのような形のセントロメアを細断し、それらを1つに連結していった。その結果、染色体が8本、4本、2本の生物ができ、最終的にはなんと「1本の巨大な染色体」を持った生物ができたのである。
この酵母は新種と言えるのだろうか? 通常より染色体の数が少ない酵母は、 通常の染色体を持つ酵母とうまく共存できないか、まったく共存できない。しかし、同数の染色体を持つ酵母同士だとうまく共存できる。だとすると、これは本当に、人の手で作り出された種の分岐の出発点なのかもしれない。
チン教授らの目的は、細胞がなぜ染色体を持つのかを突き止めることだ。そのため、今回の奇妙な新しい酵母が役に立つ可能性がある。だが、今回の研究は同時に「大規模遺伝子工学」の実証実験でもあると、チン教授らは話す。実験の最終目標は、テクノロジーを用いて、いまだかつて見たことのない形態の生命体を、人間がデザインして作り出すことなのだ。