中国人民銀幹部、政府発行の暗号通貨で「プライバシー保護」訴え
中国人民銀行が発行間近だと語るデジタル通貨は、市民の消費行動について前例のない「可視性」を政府に与えることになる。しかし当局は、新たなシステムによって(犯罪歴がない限りは)物理的な現金の匿名性が確保される、と国民に保証することに躍起になっているようだ。
正確な発行時期は不明だが、中国がデジタル形式の政府発行通貨を発行する最初の経済大国になるとの見方は強い。このプロジェクトの明確な意図は物理的な現金に取って代わることであり、政府が監視ツールとして使うのではないか? との憶測が出回っている。
中国人民銀行デジタル通貨研究所のムー・チャンチュン(穆長春)所長は今週、シンガポールで開かれたカンファレンスで講演した。ムー所長の講演は、そうした憶測に反論しているようだった。ロイターの報道によると、ムー所長は、「国民が、紙幣や硬貨を使うことで匿名性を維持したいと考えていることは理解しています。そのように望む人々には、取引における匿名性を確保します。国民の情報を完全に管理しようとしているわけではありません」と述べたという。
中国の当局者は、新たなシステムのプライバシー保護能力を説明する際、「統制可能な匿名性」という分かりにくい言葉を使っている。ムー所長は今週の会議でもその言葉を使った。「マネー・ロンダリング防止やCFT(テロ資金供与対策)、税制、オンライン賭博、電子的な犯罪活動と、『統制可能な匿名性』とのバランスをとっていきます」。ムー所長のコメントは、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された先月の自身の発言の繰り返しとも言える。「犯罪行為でない限り、他人に知られたくない買い物のプライバシーを保護したいと思っています」。
具体的にどう実現するのだろうか? そもそも、「統制可能な匿名性」の意味を理解するのは困難だ。技術面や利用者体験における意味はさらに分からない。中国の新たなデジタル通貨制度の仕組みについては詳細がほとんど明らかになっていないが、少なくとも部分的にブロックチェーン技術が基盤になると見られる。
ブロックチェーン自体は、もっとも非中央集権型のものでさえも匿名性は確保されない(中国のブロックチェーンは政府が管理すると思われる)。一般的にブロックチェーンは、送金者や受領者、金額の情報も含め、すべてのトランザクションを永久的に記録する。Zキャッシュ(Zcash)やモネロ(Monero)など、最新の暗号化手法を用いて取引関連の情報を秘匿できる暗号通貨もある(「2018年版ブレークスルー・テクノロジー10:完璧なオンライン・プライバシー」を参照)。1つ確かなのは、世界中の金融政策決定者が、中国が密かに用意しているものが一体何なのかを知りたがっているということだ。