顔認識でチンパンジー追跡、正確な個体識別で動物行動研究を加速
野生のチンパンジーの性別と個体を識別するように訓練された新しい深層学習アルゴリズムが、科学者が動物の行動について理解を深めるのに役立ちそうだ。
顔認識は最近、市民の自由を侵害するために悪用される可能性のある手法という不名誉な評判を与えられている。だが今回、オックスフォード大学の研究チームは、人間が関わらない分野において、顔認識テクノロジーの新しい有意義な活用法を見出した。研究成果は9月5日付のサイエンス・アドバンシズ(Science Advances)誌に掲載されている。
研究チームは、14年以上にわたって撮影した約50時間の映像を使って、チンパンジー23頭の1000万枚におよぶ顔画像を抽出し、深層ニューラル・ネットワークにデータを送り込んだ。結果として得られモデルは、最大93%の正確度で個体を識別し、最大96%の正確度で性別を正しく分類できた。比較テストでは、作業を終えるのに1時間近くかかった専門家の2倍、2時間近くかかった初心者の4倍という識別精度だった。一方、このモデルは1秒にも満たない時間で識別を完了した(モデルが識別に失敗したわずかな例では、ほとんどの場合、チンパンジーのお尻を顔と間違えたことが原因だった)。
研究チームはこのモデルを使って、チンパンジーの群れにおける社会的相互作用を分析した。その結果、母親と幼児がもっとも長く一緒に過ごすことを明らかにした。これまでに解釈されている行動パターンと正確に一致する結果である。
動物の追跡に顔認識が使われたのは今回が初めてではない。「チンプフェイス(ChimpFace)」という同様のツールはチンパンジーの違法取引と戦うために積極的に使用されており、自動チンパンジー識別システムや野生霊長類の顔認識(PDF)といった他の研究においても、キツネザル、ヒヒやその他の絶滅危惧種の霊長類を追跡するのにも使われている。研究チームによると、開発したアルゴリズムは、これまでのアルゴリズムに生映像に必要な前処理の量を最小限に抑えるという改良を加えている。これまでは、明暗の変化や低画質にうまく対処できていなかった。だが今回は、より多様なデータセットを使って訓練したため、そういったさまざまな条件下でも識別制度は向上している。
動物研究者は、研究対象の個体群の長期間にわたる行動の追跡に、ビデオ映像を頼ることが多い。だが、膨大な量のデータを分類するのは面倒で手間がかかり、手作業では正確性に欠ける可能性がある。今回のモデルは、動物行動の研究を加速する有望な新しい方法を示している。また、絶滅危惧種や違法取引されている種を追跡する、既存の取り組みを改善するのにも活用できるだろう。