ディープフェイクで演説「吹き替え」、インドの政治家が映像拡散
デリーの州議会選挙を前にした2020年2月初旬、インドの政権与党であるインド人民党(Bharatiya Janata Party:BJP)のマノジ・ティワリ州代表は、ワッツアップ(WhatsApp)でディープフェイクを拡散した。ヴァイス(Vice)が報じた。
選挙目的で政党がディープフェイクを使用するのはこれが初めて。オリジナルの映像ではティワリ代表が英語で話し、政敵であるアーム・アードミ党のアルヴィンド・ケジリワル(デリー首都圏首相)を批判。インド人民党に投票するよう有権者に呼び掛けている。2つ目の映像はディープフェイク技術を使って処理され、ターゲットとする有権者が使うハリヤーンウィー語(ヒンディー語の一種)でティワリ代表が話しているように見える。
インド人民党は政治コミュニケーション会社のアイデアズ・ファクトリー(The Ideaz Factory)と提携して、ディープフェイクを作成。インド国内で使われている20以上の異なる言語を話す有権者をターゲットにすることが可能になった。インド人民党はヴァイスの取材に対し、ティワリのディープフェイクは、ワッツアップの5800グループ・約1500万人に拡散したと述べた。
ディープフェイクが選挙期間中に登場するのは、これが初めてではない。例えば2019年12月には、英国の総選挙で2人の候補者がお互いを推薦し合う内容のフェイク動画が作成された。だが、この動画は選挙に影響を与えず、ディープフェイク技術の認知を高めただけだった。ディープフェイクが政治運動に使用されたのは、インドの今回のケースが初めてと見られる。ディープフェイクが極めて危険なのは、人々が見たり聞いたりしたものを一切信用できなくなることだ。もしそうなってしまえば、本物の映像でも偽物だと非難できるようになり、映像をわざわざデジタル処理する必要もなくなる。すでに脆弱な政治情勢に、さまざまな悪影響を与えることは想像に難くない。