積極攻撃に乗り出す米サイバー軍、イラン軍のデータベースを破壊
米国が今年の初夏に仕掛けたイランに対するサイバー攻撃が、ペルシャ湾内の石油タンカーを攻撃の標的にするイラン軍の能力に、長期にわたる影響を及ぼしている——。米国当局者がニューヨーク・タイムズ紙の新しい記事でこう証言している。
イランと米国の同盟諸国の間の緊張がピークだった6月にサイバー攻撃を受けたイランは、その後も、そして現在も依然として標的となったシステム、ネットワークおよびデータの修復をしていると報じられている。
攻撃は米サイバー軍により仕掛けられた。このサイバー攻撃はイランの正規軍とは別に「イスラム革命防衛隊」として知られる軍事組織の主要なデータベースを標的とし、データの破壊に成功したと報じられている。ホルムズ海峡で起きたタンカー2隻への機雷攻撃に革命防衛隊が関与したと米国当局は主張しているが、イラン側は否定している。
今回標的になったデータベースは、ペルシャ湾での攻撃を計画するために革命防衛隊が使っていたと報じられている。ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ戦略的に重要な海域だ。世界の石油貿易の半分近くがこの海峡を使っている。
2019年になって、米国とイランの指導者が大規模な武力威嚇をしている中、サイバー攻撃は米国の重要な武器となっている。ミサイルなどの従来の「物理的攻撃」とは異なり、サイバー攻撃は戦争の「閾値以下(below the threshold)」と捉えられており、他の攻撃が誘発するような緊張の激化を理論上回避できる可能性がある。
このサイバー攻撃は、同地域でのイランによる米国の無人偵察機撃墜を受けた措置だった。
今回の攻撃の結果、イランによる攻撃は激化していないと米国当局は述べた。6月20日の米国によるサイバー攻撃以来、この海域でのタンカー攻撃は起きていない。
とはいえ、サイバー分野が新たな攻撃対象領域であることを考慮すると、この一連の事件がどのように終結するかは誰にもはっきりとは分からない。
ペルシャ湾は、サイバー戦争が極めて活発に繰り広げられている場所の1つだ。8月27日、イランと対立するペルシャ湾岸諸国の巨大石油・ガス企業を標的にしたイラン政府とつながりのあるハッカー集団によるサイバー攻撃についての報告書が公表された。
この報告書は、20年前にまでさかのぼるこの地域でのサイバー活動の長い歴史における最新のものだ。紛争多発地域として悪名高いペルシャ湾岸の諸国は、サイバー空間における地域的な権力闘争にますます関与するようになっている。
6月に起きた機雷によるタンカー攻撃のような物理的攻撃であろうと、先日報じられたようなサイバー攻撃であろうと、通常、エネルギー産業はこうした争いの最前線にいる。エネルギー産業は莫大な富の源であるだけでなく、エネルギー企業はペルシャ湾岸諸国のトップに立つ独裁者や専制君主と密接なつながりを持つか、直接支配されている。
米国がサイバー空間においてかつてないほど活動的になっているように思えるとすれば、その認識は意図的にもたらされたものだ。
オバマ政権時代の慣習を撤廃することで、トランプ政権のサイバー空間に関する方針は、より容易に攻撃を仕掛けることが目的だ。
米サイバー軍の司令官のポール・ナカソネ大将は自身の戦略を「継続的な攻撃」と称しており、これは米国政府のハッカーが以前より攻撃的かつ積極的な姿勢であることを示すより明らかな兆候だ。