微小電力で動く人工ニューロン搭載チップ、神経性疾患治療に期待
人間の体の神経細胞における電気信号の伝達を再現する人工ニューロン群が、いつの日か、神経に損傷を負った患者の助けになるかもしれない。
この人工ニューロン群は、小さなシリコンチップ(上の写真)に組み込まれており、疾患やけがによって損傷を受けた可能性のある神経細胞との間で電気信号の受け渡しをする。特筆すべきは、このチップが一般的なマイクロプロセッサーの10億分の1の電力しか必要としないことだ。つまり理論的には、これらのチップを医療用インプラントに使用して、心不全やアルツハイマー病などの慢性疾患の治療に活用できるわけだ。
研究者たちはシミュレーションを使い、ラットの2種類のニューロン(呼吸に関わるものと、海馬に存在するもの)が刺激に反応してどのように発火するかをモデル化した。その後、モデルをシリコンチップに移して、生体内のイオンチャネル(体内で電気信号を伝達する機構)のレプリカを作成した。この過程は、ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)誌に発表された論文で説明されている。
理論上、人工ニューロン群による神経回路は、衰えている神経細胞が本来持っている正常な機能を再現し、体内の違う部位へと電気信号を受け渡すことができるはずだ。たとえば、心不全が起こる時には、脳のニューロン群が神経系のフィードバックに正しく反応せず、心臓の拍動が本来より弱くなる。人工ニューロン群を搭載したチップは、それを元の状態に戻す正しい信号を伝達できる。
実際、研究チームのメンバーは現在、チップを組み込んだスマート・ペースメーカーを開発している。ラットでの試験では、このアプローチは単なる通常のペースメーカーよりも有効であることが示された。ただし、人間の患者に埋め込む準備が整うまでにはまだ長い時間がかかりそうだ。