フラッシュ2023年7月12日
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中赤外ハイパースペクトルイメージングを高速化=豊田工大と名工大
by MITテクノロジーレビュー イベント事務局 [MIT Technology Review Event Producer]豊田工業大学と名古屋工業大学の研究グループは、中赤外光を使ったイメージング技術の一種である「中赤外ハイパースペクトルイメージング」を大幅に高性能化する技術を開発した。計測時間を1桁以上短縮する。
従来の中赤外ハイパースペクトルイメージングでは、熱光源や量子カスケードレーザー(QCL:Quantum Cascade Laser)からの光を試料に照射し、その透過光あるいは反射光を赤外光用検出器で検出して像を捉える。熱光源は波長帯域は広いが強度が低く、QCLは強度は高いが波長の帯域が狭い。その結果、従来の中赤外ハイパースペクトルイメージングでは、可視光を使う計測方式に比べて、計測に数十倍以上の時間がかかっていた。
研究グループは先行研究で「極限的に短い約10フェムト秒の中赤外光パルスを発生させる技術」を開発していた。この技術を利用すると、熱光源と同等の広い波長帯域を持ち、帯域幅全域で位相が揃ったレーザー光を発生させることができ、なおかつそのレーザー光は強度が高いものになる。今回の研究ではこの技術を応用し、中赤外光のパルスを可視光に波長変換し、可視光向けの計測器を使用することで、可視光を使った計測技術と同等の計測速度と画素数を実現した。
今回開発した技術で、タマネギ鱗茎の表皮細胞を観察したところ、従来の中赤外ハイパースペクトルイメージングでは計測に7分程度かかっていたものが、わずか8秒で完了した。可視光顕微鏡では、タマネギ鱗茎の表皮細胞の細胞壁と細胞質を認識することはできるが、染色せずに細胞核を認識することはできない。その点、今回開発した技術では、染色することなく細胞壁、細胞膜、細胞核を認識できる。さらに、画像を捉えた光から抽出した中赤外透過スペクトルから、蛋白質、糖質、リン脂質といった生体分子を計測することにも成功した。
研究成果は7月4日、ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)誌にオンライン掲載された。物質の分子構造や化学組成などを非破壊的に観察できるため、がん組織の診断など、幅広い分野への応用が期待できるとしている。
(笹田)
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