KADOKAWA Technology Review
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10 Breakthrough Technologies 2021

10 Breakthrough Technologies 2021

MITテクノロジーレビューがその年の最も重要なテクノロジーを選ぶこの特集は、今年で20年目を迎える。2021年のリストにはメッセンジャーRNAワクチンのように、すでに私たちの生活を変えようとしているものもあれば、まだ数年先のものもある。この記事では、それぞれのテクノロジーの概要と、詳細を記した記事へのリンクを紹介する。私たちは2021年版ブレークスルー・テクノロジー10が人類の未来を垣間見せていると信じている。読者のみなさんにも楽しんでいただければ幸いだ。

  1. メッセンジャーRNAワクチン
  2. GPT-3
  3. ティックトックの「おすすめ」アルゴリズム
  4. リチウム金属電池
  5. データトラスト
  6. グリーン水素
  7. デジタル接触者追跡
  8. 超高精度測位システム
  9. リモートシフト
  10. マルチスキルAI

メッセンジャーRNAワクチン

SELMAN DESIGN

非常に幸運なことに、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して最も効果的な2つのワクチンで使われているメッセンジャーRNA(mRNA)テクノロジーは、もう20年も前から研究されている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが始まった2020年1月、複数のバイオテック企業の科学者たちは、有効なワクチンを作る方法としてすぐにmRNAに注目した。新型コロナウイルス感染症による死者数が世界中で150万人を突破した2020年12月下旬、米国で2つのワクチンが承認され、パンデミックの終わりの始まりを迎えた。

この新しいタイプの新型コロナワクチンがベースにしているmRNAテクノロジーは、これまで治療に使われたことがない。そのため、マラリアをはじめとするさまざまな感染症に対するワクチンにつながるとして、医療の変革が期待されている。また、新型コロナウイルスが変異を繰り返しても、mRNAワクチンなら簡単かつ迅速に対応可能だ。そのうえ、mRNAは、鎌状赤血球症やHIVの遺伝子を低コストで修正するテクノロジーとしても非常に期待されている。mRNAを用いたがんの治療法も開発中だ。アントニオ・レガラードが、 mRNAの歴史と医学的可能性について説明している。

GPT-3

SIERRA LENNY

文章を書いたり、話したりするのを学ぶ大規模な自然言語コンピューターモデルの開発は、世界をより深く理解して相互作用できる人工知能(AI)への大きな一歩となる。GPT-3は、これまでで最大規模かつ最も洗練された自然言語モデルだ。何千冊もの書籍やインターネット上の莫大な文章を使っ訓練されており、驚くほど、そして時には尋常ではないリアリズムで人間の書いた文章を真似できる。これまでに機械学習を用いて作られた言語モデルの中で最も優れているとされる所以だ。
だが、GPT-3は、自身が書いた文章を理解しているわけではない。そのため、内容が誤っていたり、意味不明だったりすることもある。また、GPT-3の訓練には莫大な計算能力やデータ、資金を必要であり、膨大な量の二酸化炭素排出につながる。そのため、並外れた資金力を持つ研究室でないと、こうしたモデルを開発できない。また、誤情報や偏見に満ちたインターネット上の文章を使って訓練されるGPT-3は、同じように偏った文章を生成することが多い。ウィル・ダグラス・ヘブンが、 GPT-3の巧妙な文章の一例を紹介し、その評価が割れている理由を説明している。

ティックトックの「おすすめ」アルゴリズム

SIERRA & LENNY

2016年に中国でリリースされて以来、ティックトック(TikTok)は世界で最も急速に成長しているソーシャル・ネットワークのひとつとなっている。ダウンロード数は数十億回、ユーザー数は数億人にのぼる。TikTokがこれほど多くの人を魅了しているのは、「おすすめ」フィードを決定するアルゴリズムが、ネット上で有名になる方法を変えたからだ。

他のプラットフォームが一般受けするコンテンツに重点を置いているのに対し、TikTokのおすすめアルゴリズムは、有名なスターと同列に、無名の新人クリエイターを扱っている。また、特定の関心事やアイデンティティを共有するユーザーたちのニッチなコミュニティに関連するコンテンツを表示するのに特に優れている。

新しいクリエイターが多くの再生回数をすぐに獲得できることと、ユーザーがさまざまなコンテンツを簡単に発見できることが、ティックトックの驚異的な成長につながっている。他のソーシャルメディア企業も、同様の機能を自社アプリで再現しようと躍起になっている。アビー・オルハイザーが、自分自身の成功に驚いている、ある ティックトック・クリエイターを紹介している。

リチウム金属電池

電気自動車を消費者に売り込むのは困難だ。高価なうえに、一度の充電で数百キロメートルしか走れず、充電に要する時間はガソリンの給油時間よりもはるかに長い。こういった欠点は全て、リチウムイオン電池の限界に起因している。だが、資金力豊富なシリコンバレーのとあるスタートアップ企業は、自分たちの電池を使えば、一般消費者でも購入したくなる電気自動車を作れると言っている。

クアンタムスケープ(QuantumScape)が開発しているこの電池は、リチウム金属電池と呼ばれている。初期試験の結果によればリチウム金属電池は、電気自動車の航続距離を80%向上させることができ、急速充電も可能だ。クアンタムスケープはフォルクスワーゲンと提携しており、フォルクスワーゲンは2025年までにリチウム金属電池を搭載した電気自動車を発売予定だという。

リチウム金属電池はまだ試作段階で、電気自動車に採用するには容量が小さすぎる。だが、クアンタムスケープなどのリチウム金属電池の取り組みが成功すれば、電気自動車は新たに数百万台の市場を得るだろう。ジェームズ・テンプルが、 リチウム金属電池の仕組みと、科学者たちによる最近の研究成果について説明している。

データトラスト

FRANZISKA BARCZYK

テック企業が個人データを適切に管理していないことは明らかだ。私たちの個人データは繰り返し、漏洩やハッキング、売却、転売の憂き目にあっており、その回数は数え切れない。もしかすると、問題があるのは私たちではなく、自らのプライバシーの管理や保護は自分で責任を負うという、長年守ってきたプライバシー・モデルの方なのかもしれない。

代替アプローチの一つとして、いくつかの政府がデータトラストについて検討し始めている。データトラストは、個人に代わって個人データを収集・管理する法人のことだ。データトラストの構造と機能はまだ定義中であり、数多くの疑問が残っている。だがデータトラストは、プライバシーとセキュリティに関する長年の問題を解決する可能性を秘めている点で注目されている。アヌーク・ルハークが、 データトラストの持つ多くの可能性と、有望性を示すいくつかの初期事例について説明している。

グリーン水素

水素は化石燃料の代替物質として常に注目されてきた。燃焼しても二酸化炭素を排出しないのでクリーンであり、エネルギー密度が高いため、間欠的な再生可能エネルギーから電力を蓄えるのに適している。ガソリンやディーゼルに置き換わるような液体合成燃料も容易に作れる。だが、水素のほとんどはこれまで、天然ガスから抽出されてきた。そのため、抽出の過程で大量のエネルギーが消費され、二酸化炭素を排出してしまう。

太陽光発電や風力発電のコストが急速に下がってきている現在、グリーン水素は十分に実用的な価格になっている。水に電気を流せば水素が発生するためだ。欧州では必要なインフラ整備が始まっており、先んじている。ピーター・フェアリーは、こういったプロジェクトは太陽光や風力を利用して クリーンな水素を大量生産する電気分解プラントのグローバルネットワーク構想へのまさに第一歩であると主張している。

デジタル接触者追跡

FRANZISKA BARCZYK

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中に蔓延し始めた当初、デジタル接触者追跡が役立つのではないかと考えられていた。スマホのアプリならば、GPSやBluetoothを用いて、直近の接触者のログを作成できる。検査で新型コロナウイルス感染症の陽性反応がでたら、その結果をアプリに入力すれば、接触した可能性のある人に警告できる。

だが、接触者追跡アプリは、ウイルス拡散防止にあまり有効ではなかった。アップルやグーグルがすぐさま、スマホ向け接触通知などの機能を発表したが、公衆衛生当局がアプリを使用するよう国民を説得できなかったのだ。今回のパンデミックから得られた教訓は、次のパンデミックに向けた備えとなるだけでなく、健康管理の他分野にも適用できるだろう。リンジー・モスカートが、 デジタル接触者追跡が新型コロナウイルス感染症の蔓延を阻止できなかった理由を探り、次のパンデミックに生かす方法を探っている。

超高精度測位システム

SELMAN DESIGN

私たちは日々、GPSを活用しており、GPSは人々の生活や多くのビジネスを変革してきた。現在のGPSの測位精度が5メートルから10メートル以内であるのに対し、新しい超高精度測位テクノロジーの精度は数センチメートルや数ミリメートル以内だ。超高精度測位テクノロジーにより、土砂災害の警告や配送ロボット、道路を安全に走行する自動運転車など、新たな可能性が広がっている。

2020年6月に完成した中国のグローバル衛星測位システム「北斗(BeiDou)」の測位精度は世界中のどこでも1.5から2メートルだ。地上での補強機能を使えば、ミリメートル単位の精度が可能となる。一方で、1990年代初頭から使用されているGPSシステムもアップグレードされている。11月にはGPS III人工衛星4基が打ち上げられ、2023年までにさらに多くの人工衛星が軌道に投入される予定だ。リン・シンが、大幅に精度が向上した超高精度測位システムがいかに役立つのかについて報告している。

リモートシフト

SIERRA & LENNY

新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、世界はリモート化を余儀なくされた。リモート環境に適切に移行することは、医療や教育の分野ではとりわけ重要となる。この2つの分野で遠隔サービスをうまく活用している国々がある。

オンライン個別指導企業「スナップアスク(Snapask)」はアジア9カ国で350万人以上のユーザーを抱え、インドの学習アプリ企業「バイジューズ(Byju’s)」はユーザー数が約7000万人に急増している。残念なことに、他の多くの国では学生たちが、オンライン授業にまだ手間取っている

一方で、ウガンダなどアフリカ諸国では、パンデミックの間、遠隔医療を用いて数百万人に医療が提供された。慢性的に医師が不足しているこういった地域では、遠隔医療が命綱だ。サンディー・オングが、 アジアのオンライン学習の目覚ましい成功と、アフリカ遠隔医療の普及について報告している。

マルチスキルAI

SELMAN DESIGN

近年、人工知能(AI)は飛躍的な進歩を遂げている。だが、AIやロボットは、新しい問題を解決したり、慣れない環境で機能したりすることに関しては、まだ多くの点で的外れだ。世界がどのような仕組みになっていて、一般知識をいかにして新しい状況に当てはめるかという、幼い子どもたちにもできることが、AIにはできないのだ。
AIのスキル向上のための有望な手法として、AIの感覚を拡張することが挙げられる。現在のコンピュータービジョンや音声認識機能を備えたAIは、物を感知できても、見たり聞いたりしたことを自然言語のアルゴリズムで「話す」ことはできない。だが、こういった能力をひとつのAIシステムに統合したらどうだろう。人間のような知能を持つようになるかもしれない。見たり感じたり聞いたり伝えたりできるロボットは、人間のアシスタントとしてより生産的になれるかもしれない。カーレン・ハオが、 複数の感覚を持つAI(マルチモーダルAI)がいかにして周囲の世界をより深く理解し、より柔軟な知能を獲得するのかについて説明している。

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