遺伝子編集治療が初めて医療現場に導入された。感謝を浮かべる患者たちは、この治療を「人生を変える」と表現している。
科学者たちがCRISPR(クリスパー)と呼ばれる、強力なDNA切断テクノロジーを初めて開発したのは、わずか11年前のことである。そして今、科学者たちは、鎌状赤血球症の治療法をたずさえて、CRISPRを研究室から実際の医療現場へと持ち出したのだ。
鎌状赤血球症は、ヘモグロビンを作る遺伝子の1つが間違ってコピーされたものを、2つ受け継ぐことによって起こる。激痛発作などの症状があり、患者の平均余命はわずか53年である。米国では4000人に1人が罹患しており、ほぼ全員がアフリカ系米国人である。
では、この病気はどのようにしてCRISPRによる治療の最初の成功例となったのか? その答えの一端となるのが、生物学の思いがけない事実である。私たちの体には、ヘモグロビンを作るための別の方法が備わっているが、生まれるときにスイッチが切られてしまう。研究者たちは、骨髄の細胞に簡単なDNA編集を加えることで、そのスイッチを再びオンにできることを発見した。
現在、多くのCRISPR治療が臨床試験中であるが、ボストンに本社を置くバーテックス・ファーマシューティカルズ(Vertex Pharmaceuticals)は2022年に初めて、鎌状赤血球症に対するCRISPR治療の承認を規制当局に申請した。この治療の臨床試験に志願した患者のほぼ全員が、骨髄の遺伝子編集を受けた後、痛みから解放された。
良いニュースである。しかし、この遺伝子編集治療の料金は、200万ドルから300万ドルになると予想されている。そしてバーテックスは当面、アフリカでこの治療を提供することを予定していない。アフリカは鎌状赤血球病が最もよく見られる地域であり、今でも子どもたちの命が奪われている。
同社によると、この治療が非常に複雑であることがその理由だという。治療には入院が必要となる。医師が骨髄を取り出し、細胞を編集してから、移植し直すのだ。基本的な医療ニーズへの対処にさえいまだに苦労している国々でこの処置をするのは、あまりにも難しすぎる。そのため次は、CRISPRをよりシンプルかつ安価に提供するための方法が登場するかもしれない。