科学者は長きにわたり、古代人の歯や骨を研究するためのより良いツールを求めてきた。かつては、分析に十分耐えうる保存状態の良いサンプルを見つけるために、多くの古代遺跡をくまなく探し回る必要があった。
現在、損傷したDNAを市販のシーケンサーで解読可能にする、より安価で新しい手法により、古代人のDNA分析がブームになっている。
現在では、ネアンデルタール人が排尿した土に含まれるDNAの微小な痕跡を分析することさえ可能だ。歯や骨はもはや不要なのだ。2022年11月には、マックス・プランク進化人類学研究所の遺伝学者であるスバンテ・ペーボ博士が、その礎となる研究でノーベル賞を受賞し、今や、古生物学として知られている分野は一躍脚光を浴びている。
古代人のDNA分析により、2種類の絶滅した人類、ホモ・ルゾネンシスとデニソワ人が発見された。そして現代人が、デニソワ人とネアンデルタール人のDNAをかなり多く受け継いでいることが判明した。そして現在、全ゲノムデータがある古代人の数は、2010年のわずか5人から2020年には5550人と、飛躍的に増加している。
こうした手法によってインドの人々がさまざまな祖先を持つことが判明し、カースト制度は根底から覆された。シチリアの2500年前の戦場から採取されたDNAによって、古代ギリシャの軍隊は歴史家が考えていた以上に多様であったことが明らかになった。
古いサンプルは、現代人の健康の謎を解き明かすこともできる。2022年には、黒死病から40%の確率で生き延びることができるただ1つの変異が特定され、その変異がクローン病などの自己免疫疾患の危険因子でもあることも明らかになった。
古代人のDNAを研究しようとする学者には、古代人骨をどのように扱うべきかという文化的信念の違いで、倫理的かつ輸送上の問題が常に生じ続けるだろう。しかし、古代人のDNAの解明はすでに歴史を塗り替えている。