2021年9月、コモンウェルス・フュージョン・システムズ(CFS:Commonwealth Fusion Systems)の研究チームは、10トンもあるD型の磁石を徐々に帯電させていった。すると磁場強度がついに20テスラを超え、この種類の磁石として新記録を樹立した。同社の創業者たちによると、コストのかからない小型核融合炉を開発するために必要な、大きな工学的成果が得られたのだという。
核融合エネルギーによる発電は、物理学者が長年夢見てきた技術だ。太陽と同程度となる1億℃をゆうに超える温度では、原子核が融合し、その過程で膨大なエネルギーが放出される。そうした反応を地球上の制御された環境で持続的に実現できれば、二酸化炭素を排出しない電力が常時安く手に入る可能性がある。使える燃料源もほぼ無限だ。
核融合の手法の1つでは、磁石を使って、イオンと電子の気体(プラズマ)をドーナツ型の融合炉の中に閉じ込める。磁力が強いほど熱が逃げることが少なくなり、コストの安い小規模施設でより多くの融合反応を起こせる。その効果はかなり大きい。磁界の強度が2倍になれば、同じ電力を生み出すのに必要なプラズマの量が16分の1で済むのだ。
ただし、これまで研究に何十年も費やし、数十億ドル規模の資金が投じられてきたにもかかわらず、消費量を上回るエネルギーを生み出せる核融合プラントは実現していない。しかし、コモンウェルス・フュージョン・システムズとその支援者たちは希望を抱いており、最近は他の核融合スタートアップや研究活動でも進展が報告されている。
コモンウェルス・フュージョン・システムはすでに磁石生産工場の建設に着手しており、プロトタイプ炉の下地を整えている。すべてが順調に進んだ場合、同社は2030年代はじめまでに、核融合エネルギーによって生産した電力を現実の送電網に送る計画だ。
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MITテクノロジーレビューの「ブレークスルー・テクノロジー10」2022年版の一環として、核融合のエネルギー源としての実用化を進めるコモンウェルス・フュージョン・システムズの挑戦をこちらで紹介している。